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…ふむ。
――音と臭い…気配?
何時も…気にするものだが…
[呟いた声は、やはり低い。
問詰められない事、という言葉には、
はて、と、まるで生徒のようにとぼけた声をひとつ 返して]
[トゥーリッキの言葉に僅か、眉を寄せる。
男は普段から言葉を多く保たず、話すも言葉を探すのに時を要する常]
エンジン音…は―
…聞こえない様に、している…――。
[低い声は、囁く様な大きさで添える]
…―聞きたく、無い…。
[風の音が雪に染込む。
腹に響く音を、男は骨で感じる。
―使者たる男の扉を開くに、顔を向け。
死したらしき名を、口の中で呟いた]
…そうか。
――機会があれば、俺も…―したかもしれん…。
盲にできる程度の事ではないと言われるかもしれんが…
[誰を、を考える事よりも
いかにして、を考える方が]
[トゥーリッキの自身とは相対的な言葉に、僅かに口の端を歪める]
…「誰を」ではなく…
「誰が」なら―
恨まれないんだろうな…?
[呟いたのは彼女が小屋を出る背にで。
男は小さく息を吐いた*]
[アルマウェルが自分を見据える間
冷たい空気に晒される侭に、見えぬ視で顔を向け返して居た。
動きが緩慢なのは、寝息立てる子犬が起きぬよう]
…――、
[乾いた果物の入った籠に手を伸ばし
口にひとつ 入れる。
――もごり、噛むと甘い汁が咥内に染み込んだ]
[トゥーリッキの淹れた茶はもう冷えている。
半分程残ったその器を両手で包んだ侭
男は随分と長い時間をそのまま過ごした]
[夜続く今、時間の感覚が薄い。
男は手を伸ばすと冷たい家具に触れる。
木は、床から冷たい温度を吸い上げて居て]
…――、
[暫くそうしてから男は小屋を出た。
ざりざりと雪を杖の先で擦ってから、
足を踏みだす]
― 村の中 ―
[ざりと雪を掻き 進む先
杖にこつり 当たる――硬い感触。
村の端 森の近く
ふんと鼻をひくつかせるけれど 温度の臭いは しない]
[雪の上に屈み、手を伸ばす。
布の感触。
ぺたり、ぺたり、触れる布は凍る程で
そのまま手を先まで進めて行くと
硬いもの]
…――帽子…?
…――……
――ラウリ、か……?
[倒れて居るひと。
足でも滑らせたか、それとも。
冷たい其れは、暗い場所では男でなくとも見落とすのかもしれない]
…――
[男は、多分ラウリであるであろう死体を、肩へと背負った。
ざくり、雪踏む足が深く沈む。
片手に杖と帽子を持ち、足を踏みだした]
寒い、な…――
[背負うものに語り掛けるかのように
独りごとにしては大きな声音を
びょう、と強く吹いた細雪混じりの風が攫って行く]
…色々、俺なりに、考えた…――
長老に報いられるのは、今だろう、と…
――だが、…
[肩の温もりなきものに、語る。
低い声音は低いまま 歩は遅い]
…お前は、傍観出来るなら愉しいと言ったが…
――傍観出来る立場でも、俺は、愉しいとは…思え…――
[ふと
ざくり踏む雪の感触に、足を止める。
積もる柔らかい雪の下に、踏まれ固められた感触が足裏に届く。
もう一歩踏む。
やはり、さくりの下に固まった雪]
…――?
[男は、自身の横に広がる森の方へと顔を向けた]
[そして向かった男は、見付ける事になる。
生(なま)の臭い。
シャリリとした細かい霜柱のような氷に触れれば、自身の体温で溶けたそれは、べたりとした粘ばつきと濃いにおいを届ける。
まだ凍り切らぬ臓は、触れると表面に這う氷が割れて指を押し返してくる。
白い雪の中 千切られた腸が伸びる様や
見返す事の無い抉られた眼窩を見れぬのは
男にとって幸いだったのか不幸だったのか。]
…――…、カウコ、か…?
[千切れた髪の束を掴み鼻まで持って行って匂い、
思い出すのは、――]
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