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―― 土砂崩れの現場 ――
[――ペッカは、岩を抱え上げる。
泥まみれの其れは滑りやすいが、落とさぬように。
力を籠めると、肩から首周りがぐっと太く膨らむ。
浮いた汗が、濡れた肌へ泥混じりの流れを作った。]
ふっ、 …
[息を詰めるちいさな音にすこし遅れ――
どうん、と投げ捨てた岩が地響きを立てる。
ペッカはひとり、黙々と岩を抱え、運び、捨てる。
道を埋めた崩落の幅は広く…向こう側は見えない。]
[嵐の過ぎた森。萌えだしの新緑が日差しに映える。
せせらぎの音に喉は渇くが、土砂の合間を縫って
流れる水は濁っている。ペッカはひひとわらう。]
漕がにゃ進まん、凪もあらぁな。
[集会へ向かう姉夫婦に向けたのと同じ台詞を呟く。
水夫のペッカが乗る船が次に出航するのは半月後。
急がぬ男は、然し僅かずつ海へ向かう日々を送る。]
[いつのまにか木陰に座り込んで転た寝をしていた。
この時期の穏やかな日差しは眠たくなるから危険だと欠伸をしながら思う。]
んー、とりあえず、もどるかぁ。
[こきり、と首を鳴らしながらゆっくりと宿へと戻る。]
――宿の一階――
[集会所と兼用になっている宿の扉は大きい。
その扉をゆっくりと押し開いて、中へと足を進める。]
ただいまぁ。
[集会に参加していた人たちはほとんど帰ったけれど、残っていた――というより残って当然の宿の主人には渋い顔をしてで迎えらてしまった。]
いいじゃん、俺が聞かなくても問題ないし。
[のんきに呟きながら、グラスに水を注いで喉を潤す。]
[宿の主人は、息子たるベルンハードの
呑気な台詞に、さらに渋い顔をつくる。
カウンターの傍へ腰掛けていたペッカは言う。]
… ソレ、さっき俺も言った。
[喉を潤す幼馴染みを見やって、卓へ突っ伏す。
川の水を被ってきたものの、まだ泥に塗れた姿。
宿の主人は、呆れた態でペッカが帰り際の一杯と
称して注文したエールを用意して運ぶところらしく]
[渋い顔をする父親にはへらっとした笑みを向けておいた。
カウンターに突っ伏す幼馴染にはちいさく笑う。]
ペッカも参加しなかったんだ。やっぱ間違ってないよな、うん。
……って、ほらしっかりした大人がいるから大丈夫だと思ってさ。
[ペッカにエールを渡した宿の主人が怒ったような顔を向けるのを見れば、あわててぱたぱたと手を振って弁解した。]
それに俺だって何もしなかったわけじゃないぞ。
ドロテアが人狼がどうとか言ってたの、広めないようにってちゃんと注意しといたから。
[ほら、仕事してる、といわんばかりに胸を張ってみた]
[宿の主人からエールの杯を引ったくりながら
ペッカは幼馴染みへ腫れぼったい目を向ける。]
おう、むしろ居ねえほうがいいだろってな。
何かドロテアが追い出されたとか聞いたぜ?
俺らじゃ、追ん出すにも苦労すンだろうよ。
[ほとんど胃へ落とし込む勢いで杯を傾けると、
日に焼けた腕の太い手首で口元を荒く拭う。]
親父さんからちらっと聞いたけどなァ…人狼?
海の上じゃ、眉唾話も侮れねえもンだが…ふうん。
[エールを飲む幼馴染の言葉にそのとおりと頷き。]
なんか、噂できいた人狼を見たって煩かったんだよなあ。
いくら季節外れの嵐で驚いたからって、そんな思い違いをするかなあ。
[腹をたたくペッカにそこは違う、とつっこみながら首をひねり。
息子とその友達に呆れた宿の主人はとっとと厨房に引っ込んだ様子。]
まあ、ドロテアだって、皆に否定されりゃそのうち勘違いに気づくよな、きっと。
[がっしりした幼馴染と対照的にぽっちゃりした腕で頬杖をつきながらカウンターの上にあった莓の籠をそーっと引き寄せて、春の恵みを食べ始めた。]
…木の芽時、ってヤツか? らしかねえやな。
[普段のドロテアを思い起こしながら鼻を鳴らす。
早々に宿の主人が引っ込めば、次杯を頼み損ねて]
あ、なんでぇ本当に一杯だけかよ…。
[文句を言いながら視線を戻して、ペッカはふと
真顔になる。苺を食べる幼馴染みをしげしげと見]
そりゃ間違いだって言われ続けたらお前ェ、
本当だって勘違いと思っちまうんじゃねえの。
[籠の苺を、ひとつ摘んで齧り]
なァ。
勘違いじゃなかったら…
誰か気づいてやれっと思うか?
[――――他愛無く口にする。]
あはは、あんまり出てくるのが遅いようなら俺がいれようか。
[エールのお代わりがもらえないのが不満そうな様子に笑う。
らしくない、というドロテアの様子を思い返せば、真剣に訴えてきてたことを思い出して。]
うーん……まあ、否定され続けたらそう思うかもしれないけど。
[もぐもぐと口を動かしながら小さく応え。
他愛なく口にされた、幼馴染の言葉にぽかんと口を開く。]
勘違いじゃなかったらって――ペッカは本当にいると思ってるわけ?
[首をかしげたところで、苺のへたを口の中へと放り込まれた。]
うぇ、ちょっ、ペッカ、なにするんだよ!
[ぺっぺっと、へたを吐き出しながら日に焼けた男を睨めば、厨房から父親がでてきて、うるさい、と怒られるのだった。]
… どうだかなァ
[返答の代わりに投げ入れた苺のへたに慌てる
ベルンハードの様子に、ペッカはひひとわらう。
幼馴染みの父親に一緒に叱られるのは楽しげで、
船が寄稿する合間の休暇においては常の光景。
降った怒声で有耶無耶になった話題は続かずに、
ほら仕事仕事、とばかり相手へ酒杯を*預けた*。]
くそう、なんでペッカのせいで俺まで怒られなきゃならないんだ……
[笑うペッカを恨めしそうにじと目で睨む。
幼馴染が居るときの日常に、嵐や土砂崩れ、人狼の噂といった非日常が僅かに薄れる。
杯を手渡されてふかーいため息をついた。]
エールの代わりにミルクでもいれてやろうか……
[ぶちぶちと呟きながらも、酒杯を片手にカウンターの中へと入る。
そして樽からエールを注ぎ、ペッカの前へと置く。
その後はしばらく、カウンターごしに対面しながら、会話を続けるのだった。]
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