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[翌日、黄昏時に家を出た。
悲しみは夢で体験したかのように、他人事で、軽くて、すぐに忘れてしまえそうだった]
そだ、吸殻捨てないと
[鞄のポケットから取り出した携帯灰皿。それを包んでいた、ミルク色のハンカチは―――]
……ぁ、海
[少しだけ、潮の香りが*した*]
病院受付
[中庭から聞こえる歌に耳を傾ける。
そちらを向く人と、何も耳に入らない人と。
同じ見舞い客でも、それだけで彼らを待つ人の容態が分かる気がした]
[歌い終えると、見知った顔と見知らぬ顔がいくつか。
声を聞いて立ち止まっただろう人たちのささやかな拍手が見えて、まるでステージの上に居るように気取ったお辞儀をしてみせた。
胸に広がるのは密やかな安堵。
この世界には、確かに歌が旋律が存在しているのだという事への喜び。]
ありがとうございました。
[薄い笑みを浮かべてから、感謝の言葉を述べる。
それは聞いてくれた人にであり、世界に対しての言葉でもあった。]
受付
[中庭から受付に移動すると、警備員の姿を瞳に捉えた。
入院している時は居たかどうかすら知らなかったのに。
退院してこの病院に通う内に、その姿は見慣れてしまっていた。
いや、彼の事だけではない。
毎日毎日、用事も無く通っている内に、スタッフや入院患者の大半は見知ってしまったし、見舞いの人も何人かなら記憶に残っている。
向こうがこちらを知ってるかどうか、までは知らないけれど。]
こんにちは。
いつも、お疲れ様です。
[すれ違う前に立ち止まり、頭を下げた。]
[中庭から響く歌声が止んだ。
前回入院した時、その声を目の前で聞いた。
白い雲が、青い空が
裸足の足裏を擽る芝生が
全部、全部。眩しかった]
ありがとうございました
[帽子に手をやり、頭を下げた。
素晴らしい声を、挨拶してくれたことを、全てひっくるめて
――心の安らぎを]
[彼女に彼の返事を解する事は出来ない。
言葉ではなく、ざわざわとした耳鳴りとしてしか捉える事が出来ない。
口の動きを読む事も、容易では無かった。
けれど、何を言われたかは分かった気がしたから、軽い微笑を浮かべた後、それ以上は喋らず再び歩き出す。
目指す先は病棟へと続く階段。
入院中、そして退院してからも続けられた行為。
知っている人の所、あるいは知らない人の所へも、ふらりと気が向いた所へ足を運ぶ。
さて、今日はどの階まで行って、どの病室へ行こうか。**]
[隔離されているので好きな時に外に行けないし、
好きな時に誰かと話す事も出来ない。
誰かがこの部屋の前まで来れば話す事は出来るけど。
手続きが必要だとか、時間が掛かるとかで来れる人は少ない。]
バレー、したいなあ
[外を眺めながらまた独り言。独りだけしか居ないので、独り言でも言葉を聞かないと気が狂ってしまいそうだ。]
603号室
[結城と何か言葉は交わしたか。
きっと、笑顔で別れただろう。ばいばいと笑顔は1セットだから]
……とうとう個室、か
[最初は4人部屋だった。それが2人部屋になり、かけられるお金は少しずつ増えていった。個室の多い上階の部屋は、眺めだけは、本当に良かった]
悔しい、なあ
[首に巻いたままのマフラーを握り締めて窓から顔を背けた]
[そういえば、隣のクラスだか下の階だったか、ともかく同じ学校の有名人が入院したという噂があった。
隣の席の………]
クラスメイトも思い出せないとか
だめだこりゃ
[なんとかという女の子が、眉を下げて、でもどこか誇らしげに話していた。噂の発信源になれることが嬉しいのか、と考えたことを覚えている]
まあ制服脱いだらわからんけどね
[ひとりごち、マフラーをベッドに放り投げた]
――……
[眠りは、浅く。
時計の長針が一回りもしない内に、男は再び目を開いた。帽子を手に取り、暫くぼんやりと仰向けになっていてから、男はベッドから出た。
被った帽子に代わり、傍らに置かれた松葉杖を取る。その両端を前に出し、それを芯に右足を進め、また両端を前に――繰り返す。
男は左足を失っていた。
半ば捲り上げられたズボンから伸びるのは身を覆う白。重度の開放骨折から動かせなくなったその足は、近い将来、真に失われる予定だった]
……
[慣れた様子で歩き、男は病室を出た。かつり。ぺたり。小さく音を響かせ、廊下を進み]
[不意に届いた女子学生の声>>28が、思考を現実へと帰化させた。
彼女へと振り返った己の表情は酷く、間の抜けたものであっただろう。大きく目を瞠り、やがて現状を把握しにこりと微笑んだ。]
こんにちは、黒枝さん。
……ああ、ちょっと考え事してたんだ、うん。
[不思議そうに此方を覗き込む様子に、なんでもないよと首を振る。
何時もの自分を取り戻そうとするのは、下らない自尊心からかもしれなかった。
バツ悪そうに視線を落とし、彼女の荷物を見遣る。]
今日からだったんだね。後で、様子を見に行くよ。
[『ばいばい』。若者らしい挨拶を残す彼女へ、軽く手を振って見送った。]
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