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―あの3分―
「僕に出会わなければ、もっと長生きできたのにな」
『心臓が15億回鳴っちゃったのよ』
「なんだっけそれ?」
『“ゾウの時間ネズミの時間”。ヒトだと26.3年。現代人なら15億なんかじゃ死なないはずなのに』
「それと事故は関係ないじゃないか」
『ヘリクツー』
「どっちがだよ」
『……たまにでいいの。一年……ううん、十年に一度でいい。アタシのこと、そんな女もいたなぁって思い出してくれる?』
「雪が降るたび思い出すよ」
『皮肉な名前よね』
[目前の彼女は、何故か照れ笑いを浮かべていた。
少しだけ上体が右側に傾いたのでわかった]
「――六花」
[あまり呼んだことのなかった名前。
6年前の顔から何一つ変わらない――しかし美化されているのだろう――勝気に見える顔が、くしゃっと笑顔になって、消えた]
[もう二度と手を合わせには来ない予感があった。
けれど、人知れず命日にはビターチョコを食べるかもしれない。
書き上げた小説は、彼女の定位置だった本棚の前のガラステーブルに置いて一晩寝かせるだろう。
そして自分の一番のファンである彼女の、酷評を待つのだ。
「薄っぺらい死を書く人は嫌い」
最初に見せた小説に対して、はっきりそんなことを言った彼女の、いつでも忌憚のない意見を待つ]
[告別式でレベッカが言っていた言葉が思い出される]
『綺麗にお化粧してもらってよかったねー。あなたが好きだった、雪みたいに白くて綺麗』
夢、まぁ、普通じゃなかったしね。
とりあえず夢ならなおさらやって悪いことにはならないんじゃないかな。
埋めることが思い出になるし。
と言おうと思ったらロッテがもう自分で言ってたし。
4個あたためたロールパン。
未だに最後の一個が残っている。
減らない……。
腹は減ってんだよ腹は!!
つか、あんまくわねーと発熱出来なくて寒いんだー!!
書き終わった。
「それでもボクはやってない」か「バッテリー」観に行こうかなー。
でも最近映画観てばっかだなー。
来週は休みじゃないしいいかー?
語尾のびーーーー。
―メモ―
「迫害なんてしてないわ。自衛よ」
気丈に振舞うウェンディに、男は笑う。
「そうやって理由をつけて、自分たちを正当化するんだな。正義だ、みたいな顔をして」
手は、ウェンディの首を締め上げようとしない。
「当たり前じゃないの。人間を殺す人は裁かれるものよ」
「君にはその権利があるのか?」
いつの間にか力が緩んでいた男の手を抜けて、ウェンディは、くるっと半回転して、男の顔を覗き込んだ。
「誰にでも、大好きな人と生きる権利があるだけよ」
感情を現し声を荒げる。
そして、あ、と口を開けて、茫然と男を見上げた。
「誰にでも、ねぇ……」
全てを見透かしたような男の表情に、ウェンディは無性に気恥ずかしさを覚えた。
人狼は、人とは違うわ!!そう叫び、赤い世界を駆け出す。
いつの間にか浮かんでいた月は、青白い。手首に浮かぶ血管のような色だった。
追いかけてくるのは、不気味なその月。
どれだけ逃げても、どこまでもどこまでもついて来る。
足がもつれて、体が舞った。
「いやああぁ……!」
ポケットから飛び出して散らばったタロットカードが、月明かりに照らされている。
逆さの女帝に覆い被さるような、死神のカードが目に入り、ウェンディは眉間に深い皺を寄せ、地面に額が付かんばかりに顔を伏せて嗚咽を漏らした。
[メモの最後の方はミミズが這ったような文字。
ハーヴェイは、いつしか眠りへ]
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