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[今抱いている感覚は以前感じたものと似ている。
さっき、泣いている先輩を前にして何もできなかった時と。
或いはもっと昔――幼稚園の頃、他の子と仲良くできなくて怒られてばかりいた時と]
あー……
[苛々と頭を掻く。嫌になる程の疎外感を何とかしたかった。
手近なところではそれしかなかったから、ポケットに手を突っ込み、とりあえずプレイヤーを取り出そうとして]
[何かを弾いたような高い音が一つ、響いた]
え?
[顔を上げる。
続いて流れてきたのは、歌こそないけれど何度も聞いたあの曲のメロディ。
けれどイヤホンは未だポケットの中にある]
何?ドコから――
[音の源を探して、視線を巡らせ。
程なく自分の後ろ、噴水の水の中に、それを見つけた]
『……。』
[そこには小さな男の子が映っていた。
怒っているような仏頂面で、けれどよく見れば何かを堪えているようにも見える表情で]
『……これ。』
[振り絞るような小さな声で、手に持った何かをこちらに押しつける。
そうして踵を返して、一目散に駆け出して行き――]
[水面は揺れ、元通りの光景を映し出した。
けれど目を見開いたまま、暫くの間は動けずにいて]
あれ、
[不意に違和感を感じて、ポケットの中を探る。
そこにあるのは音楽プレイヤーと、携帯電話と]
これって、たしか。
[小さな小さな、ワスレモノの欠片**]
(ここ、は。)
[波の音、潮の匂い。
賑やかな笑い声。]
『こんなちっちぇーのがこわいなんてへんなの!ほらほら!』
『うわああん、たけにぃのバカー!』
『こら、タケ!おまえまたキクコいじめてんのか。』
『なんだよマツ兄!いっつもキクコのみかたばっかして!』
[あぁ、これは覚えてる。
毎年恒例だった潮干狩りの時だ。
フナムシを押し付けられそうになって、大泣きして。
兄二人が言い合いをし始めた隙にこの場から逃げだしたんだ。
走って、走って。
後ろから、お父さんとお母さんの慌てた声が聞こえたけど、止まらずに走って。]
『きゃあっ』
[どしん、前にいた人にぶつかった。
尻餅をついて、痛みにまた涙が出て。
それから。]
(…あ、れ。)
[この後何があったのか、思い出せない。
今の私の記憶にない出来事が、目の前にある。
小さな私がぶつかった人が差し伸べてくれた手。
その手につかまって、立ち上がって。
ぱたぱたとスカートをはたいて、お礼を言おうと見上げた人は私の顔を見て驚いて、そして問われた。]
『…君のお母さんの名前は、何て言うのかな?』
『お母さんの?』
…だ、め。
[答えちゃダメだ。
そう思ったけれど、止められる訳がない。
小さな私は、お母さんの名前をその人に言った。
そして、後ろから、浜から離れた私を探すお母さん達の声が、聴こえて。]
『やっと、見つけた。』
『菊子!』
[ぐい、と。
その人に腕を引っ張られる。
急にそんなことをされたから、私は怖くて泣き出して。
お母さんは、私の腕を掴んでいるその人の顔を見て、固まった。]
『菊子を放して下さい。』
『勝手なことを言わないで。私を勘当したのはあの人でしょう。
今更、父親面されたって。』
[お母さんが見たことないような怖い顔をして、話している。
私を捕まえている人も、怖い顔をしている。
怖い、怖い、怖い。お母さん、助けて。
そうだ、この時そう、思ってた。
いつのまにか、お父さんも、この場に来ていて。
お父さんも加わっての、話し合いになった。]
『……時間を、くれませんか。
この先10年、俺が一人で子供たちを育てます。
10年後の俺と子供たちを評価した上で、こいつを取り上げるかどうか、決めて下さい。』
[お父さんの言葉に、私を捕まえている人が頷く。
お母さんは、すごく悲しそうな顔でお父さんと私を見た。
お父さんとお母さん、二人の声は急に切れ切れにしか聞こえなくなって。
『離れたくない』『お父さんが病気で』『側に』
断片的に聴こえる声、二人の表情。
徐々に俯き、悲しげな顔をするお母さんが、お父さんの言葉に頷いて。
小さな私の手は離されて、お父さんの元に。
お母さんは、私をぎゅっと抱きしめて、そして。]
…っ、いかないで!
お母さん、いかないで!いっちゃやだ!!
[小さな私と、同じ言葉を叫んだ。]
[お父さんの手に引かれて、その場を離れさせられた。
お母さんは振り向いてくれない。
お父さんはすごく強い力で、ぐいぐい引っ張って。
ずっと待ってたお兄ちゃん達に、お母さんは帰ってこないって説明した。
お兄ちゃん達も、泣いて。
でも、わかったって、返事をしてた。
それも、小さな私には、ショックだった。]
[視線がぶつかる。
その表情に微笑を認めれば、遠慮がちに見上げた顔がほっとしたように解けた。]
あったんですね、ここに。
…良かった。溜息が聞こえたから、心配しちゃった。
ふふ、そうですね。
[軽口を聞いて、胸に漸く安堵が降りる。
他の行き先はと問われ、逡巡するよう握った手を顎に当てた後、口を開いた。]
ありがとう。
……ひとつだけ、行きたい場所があるんです。
付き合ってくれますか?
お言葉に甘えて、もう少しだけ。
[微笑んで、合わせた目はゆっくりと窓の外に向く。
薄い潮の香りが漂う方角。
視線の先は、海を示していた。]
『おとーさんもまつにぃもたけにぃも。
どーしておかーさんがいっちゃったのをしかたないっていうの?
どうしておかーさんはあのおじさんといっちゃったの?
わたしがあのおじさんにぶつかったから?
わたしがみつかったから?
そうだ。
わたしがおかーさんのナマエ、おしえたから。
わたしのせいで、おかーさんがいなくなっちゃった。
わたしの、せいで。』
[ぱきん。
頭の中で、何かが割れた音がして。
そうだ、そのまま、私は気を、失って。
目を覚ました時には、お母さんを、忘れていたんだ。]
[そうだ。
10年前と、今と。
父さんが変わったんじゃない。
勿論、兄達も変わってはいない。
変わったのは。
忘れてしまったのは。]
あたしの方、だったんだ。
[父も兄も母のことを口にしなかったのは。
心の負荷に耐え切れず忘れてしまった私を、刺激しないように。
私が思い出すのを、待ってくれていたんだろう。]
……帰らなきゃ。
[帰って、父さん達に、話さなきゃ。
そして。]
お母さんに、謝らなきゃ。
忘れてて、ごめんって。
[ぎゅ、と。
手を握る自分の身体を、あの兎から感じた力がふわり、*包んだ。*]
― 海辺/灯台 ―
ここから、上にのぼれるんです。
多分、開いてると思うんだけど―― 開いた。
[階段の前扉が施錠されていないことを確かめると、
とんとんとん、とリズミカルに外部階段を上る。
時折振り返って、手招きしながら。]
昔はこんな色だったのよ ね。
今の真っ白な灯台に慣れちゃうと、びっくりしちゃうな。
……10年前は、灯台守のおじさんにお願いして、
よく此処に登って、海を見てたの。
[階段を上りきると、急に風が強くなる。
小さな灯台だから、展望場は然程広くない。
うーんと伸びをして、省吾が上がり切るのを待った。]
灯台か。登った記憶がないな。
[くすぐったそうな笑い声には、たまにはね、と笑って返す。鈴の声を後に六花の背を追いかけて]
お、とと。
[どうにか登った灯台の上は少し狭かった。
手摺を掴んで何とか身体を固定すると、興味深そうに眼下に広がる景色を眺めた]
へえ、これはなかなか。
灯台守もちゃんといたんだ。
すぐ近くなのに知らなかったな…。
[吹き抜ける風に目を細めながら、続きを聞こうと六花の顔を見つめる]
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