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クランクアップif
[文化祭に向けての映画撮影がようやく終わり、部屋の隅に身を寄せて安堵の息を吐く。
面白そうだと思ってつい気軽に参加してしまったが、いざ撮影が始まると体を使う事しか脳がない自分は色んな箇所であっぷあっぷしてしまい、演技をする余裕などほぼなかった。
映画の中の鷹野クルミは、少し高慢ちきなお嬢様設定だったのだが、台詞かみかみな上に棒読み、イントネーションがおかしいというまさかの負の三拍子が見事に揃ってしまい、これはもう見ていられないと神田先生からのストップがかかり結局素のままの自分で撮影に参加する事になったなんてまさかそんな…。
全体に多大な迷惑をかけてしまった事に対し、撮影中はずっと胃がキリキリしていた。
皆は気にしなくていいって言ってくれてたけど、こちらとしてはそうもいかない。
畑違いの分野に興味本位で首を突っ込んではいけないのだと今回の件でよく理解した]
テッテッテテーン!鷹野クルミの賢さが1上がった!
…なぁんちゃって。
[壁に背を預け、そのままズリズリとしゃがみ込むと手に持っていた台本をペラペラと捲り、ある部分をお嬢様口調で読み上げてみる]
…しにたくない?
なにを、ちまよった、ことをっ、いってますの?
ただ、となりのっ、しゃりょーにっ、いどー、するだけでしょおにっ。
………こんな喋り方に感情移入出来ないし、スラスラ読めるわけなぁーい!ばかぁ!
[勢いよく台本を閉じると、もう見たくないとばかりに適当な場所へ放り投げる。
緊張感から開放された今なら、気負わずリラックスして読み上げれるかと思ったりしたが、やはり無理だった]
[素のままで参加したらしたで、負の三拍子からは開放されたものの、今度は台詞覚えの壁にぶち当たり、これは一体何の公開処刑なのだろうと真剣に思ったりもした。
初回の考察部分を何度リテイクしても必ず誰かへの考察部分が抜けており、
もう次は誰かへの考察が抜けててもそのまま撮影続行という流れになってユウキ先生への考察が抜けたまま完成してしまったという。
何なの。何の公開処刑なのこれ。何が悲しくて全校生徒に自分の馬鹿さ加減を披露しなくてはならないんだろう。
やばい。なんかマジで目頭が熱くなってきた。うは、おけ、転校しよう。そうしよう。
どんよりとした空気を纏いながら、隅っこでウジウジと俯いていると、不意に頬に何か冷たい物を押し付けられ、吃驚思わず声を上げてしまう]
うっひゃあっ!!
[何事かと思い顔を上げてみると、そこには笑顔の成瀬がいた。
どうやら須藤からの差し入れのジュースを持って来てくれたらしい。
差し出されたペットボトルを受け取ったのを見ると、笑顔を絶やさぬまま成瀬は自分の隣に座り込み、頭を撫でてくれた]
…ありがと。
う〜…リウ〜…迷惑いっぱいかけてごめんねぇええ〜…!
[自分を慰めようとしてくれる成瀬の気遣いが嬉しくて、やっぱり転校するのはやめようと思った。我ながら単細胞である]
そもそも転校するって言ったところで、お兄ちゃんにヘッドロックされて終了な未来しか見えないしね…!
…え、あ、ううんっ!なんでもないっ!なんでもないよっ!えへへっ。
[思っていた事をいつの間にか口にしてしまっていた事に気がつくと、慌てて視線を明後日の方向に向ける。
そして、その視界の先にいた長澤と偶然目が合ってしまった。
劇中内での様々な事が走馬灯の様に脳裏に流れ、顔を赤くして再び俯いた。
心臓が煩い。全力疾走した時のようにバクバクと鳴り響いている。
――公開処刑に等しい散々な撮影ではあったけど、
ずっと憧れてた長澤と劇中内とはいえ、ちょっといい感じになれたのだけは嬉しかったなぁ、なんて……]
―END―
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