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くそ…っ。
おまえが、
おまえが余計なことをするから―――。
[かちかちと歯を鳴らしてプレーチェを睨みつけ、
両腕を広げて彼女に掴みかかる。]
おまえさえ、いなければ、
居なくなってしまえば―――っ!
ああ、そうか。君でも良い。
―――いや、君が、いいな。
君の体を、彼女のためにもらおうか。
[腕を掴んでいた手を離し、彼女の細い喉へと向ける。
そのとき、背後で革靴の音が高く響いた。]
…なんだ、ヨシアキさんか。
今、良いところなのだから、邪魔しないで欲しいな。
[振り返る顔には、笑みが張り付いたまま。
新しく現れた人物に気をとられ、
手の力が少し、緩む]
理解、出来ないでしょうね。
ある日、突然に全てを失った男の気持ちなど。
[寄り添うような2人の方へ、
ゆら、と振り向いた店主の手には、
細い金属の―――火掻き棒。]
ええ。別に構わないですよ。
理解などしていただかなくても。
邪魔さえ、しないでもらえれば。
[両手に構えた金属の棒が、
ゆるりとヨシアキへ向けられた。]
……ええ。そうですよ。
私のこの3年間は、そのためだけにあったのです。
だから、このまま何も―――
[動じない相手の態度に、気勢が殺がれる。
得物の先を下げ、男の手元を見守った。
鞄から取り出されたモノに、軽く、目を瞠る。]
それ…、は……
[現れた骨。鞄から取り出された金槌。
繰り広げられる光景に理解が追いつくと同時に、
顔から音を立てて血の気が引いた。]
やめろ…!
彼女に、手を、出すな――…
[悲痛な声を絞り出す。
止めるべき手は、固まったように、動かない。]
[地面に転がった骨と、少女に渡された鞄と、
不安げな顔をする少女と、
どこか、達観したような男と。
沈黙のままにそれらを見比べて、
小さく肩を落とした。]
…私も、荒事向きで無いのは承知しているからね。
[ゆる、と火掻き棒を動かして、
棚の上のものを引っかける。
上から落ちてきて、手の中に収まったのは、
ほとんど真っ黒に染まった人形。]
―――実際、君が欲しいのは、
あの土地の"安全"、だけなのだろう?
ならもう心配要らない。
あの土地からは、もう、"何も出ない"。
[提示された選択肢とは無関係な話を、口にする。]
だから、それを置いて、
その歯も置いて、
ここから立ち去ってくれないかな。
[ふる、と肩が揺れる。
指が白くなるほどに、拳が強く握られる。]
私は、……それでも、彼女を―――…
[はたり、と顔が臥せられ、
語尾が、掠れた。]
[近づく気配。ふわりと香る、柔らかな匂い。
視線を上げた先に、両手を広げた少女の姿。
何か言おうとして。
なにも言えず。
頼りなく感じる指先を、彼女の首筋へ伸ばす。
自分が残した痕を確かめるように。
その行為を完遂しようとでもいうように。
その時、反対側の手の中で、
ぱきり、と乾いた音がした。]
―――……、…
[目が丸く見開かれ、唇が紡ぐのは、名前。
伸ばした手が、少女に、おず、と触れ、
躊躇いがちに、やがては強く、その体を抱きしめる。]
…すまない。
君を、死なせてしまって、
すまない ……―――――
[小さな、小さな声で紡がれる言葉。
その、最後の五文字は、音にすらならず。
しばらくの後、ようやく少女を解放する。]
……すまなかった。
ああ。君の言うことが、正しいのだろう。
私は……
[一瞬宙を見上げ、視線を横へ逸らす。]
……他の骨は、警察署だろう?
それも、一緒に。……頼む。
[それだけをぽつりと言って、
ゆっくり、背を向けた。]
― 28日 ―
[夜が明けた翌日。
夢美堂から、店主の姿は忽然と消えていた。
同日朝、派出所のポストには、
差出人不明の紙が投げ込まれていた。
それは、行方不明の2人がいる場所を仄めかすもの。
もっとも、それが発見される以前に、
彼らは解放されていたわけだが。]
[夢美堂では、変わらず白猫が日向で丸くなり、
タケさんがこっくりと居眠りをしている。
消えたのは、店主と、人形と、
届けられた写真だけ。
店主の失踪は、少しの間噂になるだろう。
でも、結局それっきりで。
ただ。時折、夢美堂の軒先に、
花束が届けられた…かもしれない**]
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