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[詰め寄られて>>1:121、少し仰け反るような体勢になり]
俺がここで穂積さんを騙す利点がどこにあるってんですか。
[憤慨されるとまた困ったように頭を掻く。実際すんなり信じられるような話ではないが、状況はそれを許さない。タイムスリップしたとしか考えられない証拠を説明すると、相手も少しずつ理解してきたようだった]
えっと……今んとこ、穂積さんのお子さんらしき子供は見かけてないです。
ただ、俺らの他にも何人か、同じようにタイムスリップした人は居るみたいですが。
[不安そうな穂積>>1:123に対し、気の利いた言葉が出てこない。きっと無事だ、なんてことも無責任には言えず、ただ確認した状況のみを伝えておいた]
1人で大丈夫ですか?
何なら、送って行きますが。
[穂積も家に帰る>>1:126と聞いて、同行を申し出たが、相手からは丁重に断られてしまった。無理矢理ついて行くのも、と言う部分はあったから、それ以上食い下がることはなく、その場で別れることになる]
分かりました、何があるか分からないので、お気をつけて。
……ああ、それと。
兎が言ってた「ワスレモノ」、探してみてはくれませんか。
見つけないと、元の時間に戻れないとも言ってたので。
[あの取り乱しようでは兎の話を聞いてたかも怪しく思え、別れ際にそう穂積に告げて。自分は家がある方へと歩いて行った]
『ウサギ、ウサギ、ダレミテハネル?』
[声を潜めた二人にも、その歌は聞こえたろうか]
『ウシロノショウメン、ダアレ?』
[カタコトの幼児のような、小さな声が、そう告げると同時、ぽーん、と淡い金色の光が時計から飛び出して、公園の隅に居たセーラー服の少女の頭上で、弾けて消えた]
へっくしょん!
[穂積と別れて家へ向かう最中。急に鼻がムズついて盛大にくしゃみをした]
っかしいなぁ、花粉症は持ってねーんだが。
悪寒もしねぇから風邪じゃねぇ。
誰か噂でもしてんな?
[話題にはされていたのできっとそのせいだろう]
『ダアレ?ダアレ?コノコジャナイネ』
[光の中に、小さな「声」も消えていく]
オヤオヤ、ワタシの時計モ、「夢」を見テイルヨウダネ。
[再び、カチコチ、と本来の「時」を刻み始めた時計を眺めて、職人は、ただ、すこうし困ったように笑った]
お嬢サン、大丈夫カネ?
[光の向かった先にいた少女は何が起こったか分からない様子で、固まっている。職人にしても、実は良く分かっていないわけだが、とりあえずは放っておけなかったので、カツン、とステッキを鳴らして少女の元へ]
はい。ありがとうございます。
雷電さんも、お気をつけて。
[お辞儀を一つした別れ際、]
・・・「ワスレモノ」?
[そういえば、そんな言葉を聞いた気がする。]
わかりました。
[一つうなずき、自分も家・・・の途中にある、かつての職場、8年前に潰れた美容院へと足を運んだ。]
[住宅街を抜けて、更に少し坂道を進んだところにようやく店が見えてくる。その少し奥には母屋の姿も見えていた]
さって、と。
親父達はどうなってんだか。
[一度店の前で立ち止まり、建物を見上げる。昔ながらの家屋、10年経った今でも変わらないもの。元の時間でも同じ姿で建っている店をしばらく見詰めてから、引き戸をガラリと開けた]
親父ー、居るかぁ?
[家族も飛ばされて来て居るのか、居ないのか。それとも10年前の家族が居るのか。様々な可能性を頭に巡らしながら声を張り上げる。けれど、返って来たのはシンとした静寂だけ*だった*]
和馬君、よろしくね。
私は古川チカノというの。
[ウサギを見たという少年に名乗り、小さくため息をついた。]
無茶ぶり…かぁ。
ワスレモノって、言ってたよね。
なーんだろうなぁ、私の忘れものって。
…あ、そういえば、洗濯機まわしたけど干すの忘れてたなぁ。
[しまった、と定食屋の方へと視線を向けるけれど、そこには洗濯機の中に放置された洗濯物は無いのだろう。]
「ワスレモノ」
10年前・・・
[目的地へと速足で向かいながら、つぶやく。]
あの人が死んでしまったのは、15年前。
再婚は、6年前。
[そう考えると、10年前というこのときは、あまりにも中途半端すぎる。]
本当に、10年前?
[タイムスリップ自体を訝しんでいるのではなく、本当に「ぴったり10年前」なのか、それとも、10年「よりも前」なのか。疑っているのは、その部分。]
[無茶振り。
今時の少年らしい和真の言葉遣いに、少し笑った。]
ふふふ。だよね。
せめてヒントでもあれば、ね。
あぁ……喋るウサギなんて初めて見たから、写真の一枚でも撮っておけばよかった。
それも忘れものといえば忘れ物、かも。
[非日常な状況にも適応しつつあるのだろう。
のんびりとカメラフォーカスの仕草。]
わたしなんてしょっちゅう忘れ物するから、どれだか分からなくって。
[身体にしては大きな荷物を肩に掛け直した。]
[そうしてたどりついた、ごてごてとした外装の美容室。]
こんにちはー。
[扉を開け、何となく声をひそめてしんとした店内に一歩踏み込んだ瞬間、]
―!!
[誰もいない空間に、人々が現れ、そして、]
「にしてもぉ、ひまっすねぇ。」
[音までも聞こえてくる。]
あのっ・・・!
[皆が見知った美容師。誰に話しかけるでもなく声を上げるが、]
「この休日なのに誰も来ないって、ヤバくねー?」
・・・聞こえて、ない?
[それどころか、彼女たちはまるで自分などいないかのように各々くつろいでいて、そして、]
「こーら。お客様いなくても、やることはいっぱいあるでしょー。」
[言いながら現れたのは、今とほとんど姿かたちの変わらない、自分**]
そうだなぁ…、街、戻ってみる?
[祐樹の問いかけにそう応えてはみるものの、彼女の意識は海へと向けられる。
後ろ髪ひかれるとは、この事だろうか。
何に引かれているのかは、彼女自身にも全くわからないのだけれど。
其処には何かがあるような気がしたのだ。**]
わたしは一度ここで分かれようかな。
なにか見付かりそうな所に足を向けてみるつもり。
それこそ馴染み深い場所・・・とか。
[振り返らぬままに、後方を意識する。
記憶通り古ぼけた灯台は―――足を向けずに来てしまった。
街の様子が気になるのも確かだからと、意識とは裏腹に前方を指差して。]
それにまだ、何人か来ているのでしょ?
話も聞きたい。
[さて、それが目撃されるのは、いつのタイミングか。
少なくとも、『誰か』が姿を消した後なのは、間違いはないのだが]
『……あれ?』
[とてててて、と駆けぬけようとした兎が、不意に足を止めて首を傾ぐ]
『あれ、あれれ?』
[しばし、沈黙]
『……あはー、ちょっと目測誤っちゃったぁ☆』
[沈黙を経て上がったのは、てへ、とか言わんばかりのお気楽な声]
『あー、でも、仕方ないのかなあ。
元々、強い念で時計と相互干渉してたものだけが呼び込まれてたんだし』
[声をかけられてもまいぺーす、なにやら納得した後、兎はくるり、と振り返り]
『やあ、どーやら、時計に力をもらうと、そのひとは空間の狭間に落ちちゃうみたい。
現実に戻せる計算だったんだけど、きっと、想いが強かったんだね!
とりあえず、時計が修復されれば解放されるから、頑張ってね!』
[例によって一方的に言いきると、返事も突っ込みも全て無視して走り出す、が。
その姿は最初に見たときよりも薄れたように見えるかも。**]
[返る静寂から、店には誰も居ないと言うことが知れる]
親父らは居ねぇか。
……そーいや、10年前の軸の人も居ない、ってことなんかな。
[別の場所では立体映像のように10年前の様子が目撃されてるとは知らず、そんなことを呟いた]
…おお、マジで10年前だ。
[店の中を見回すと、壁にかけられたカレンダーが目に入る。その日付はやはり10年前を示していた]
10年前だと……まだじぃちゃんもばぁちゃんも生きてる時だなぁ。
……マジで居ねぇのかな。
[祖父は5年前に、祖母は7年前に他界した。祖父は自分にとって先々代の店主でもある]
60になったら確定で代替わりって、どーゆー方針だったんだろう。
[父が祖父から店を譲り受けたのは自分が6歳の時。自分が幼かったため、祖父が店であれこれする姿を見た記憶はかなり薄かった。ちなみに現在父は60歳。今年息子である自分に店を譲った形となる]
じぃちゃん居ねぇかなぁ。
会えたら話出来るかもしれねぇのに。
[居たとしても話せる可能性は低い気がするけれど、そう望んでしまうのはじぃちゃん子だったためか。慕った祖父の姿を探し、母屋の方へ移動してみることにした]
……あー、いや。
こーなる前に瑞原さんって人に会って、紹介されて。
暇だから見に行こーかなって思ってたトコだったんすよ。
[驚きが過ぎた後で。
説明を求める声があってもなくても、そんな風に喋った]
可愛い人がやってるって聞いてたから、会えたらなって思ってたんすけど。
期待以上でした。
[にかと笑い。
帰ったら絶対行く、と改めて誓ったのだった**]
─ 海辺の道 ─
[各自各様の様子に、ゆるく腕を組む。
目的地であった海に人がいない、というのであれば、そちらに行く事もないか、と思うわけで]
……とりあえず、俺は一回、街の方に戻るわ。
[『ココロのワスレモノ』というキーワード。
それと関わりのありそうなのは、と。
それを考えるのが先だと思ったから。
海へ向かうもの、他に目的地があるものがいるなら、そちらとは別れて。
先ほど後にしてきた駅前へ向けて、歩き出した]
……ちょっと待て、聞いてねぇぞそんなこと!
「想いが強かったんだね!」で済んだら世話ねぇよ!
これでもし時計とやらが修復出来なかったらどうするつもりだ!!
[一方的に言って走り出す兎を捕まえようと手を伸ばす。けれど、身軽な相手に簡単に避けられ、掌は宙で握り拳を作るに留まった]
くっそ、あんにゃろ………ぉ?
[走り去る兎の後姿。それが少し掠れたように見えて、思わず動きを止め、目を瞬かせる。握った拳で目元を擦ってみたが、その間に兎は姿を消してしまっていた]
空間の狭間って……大丈夫なのかよ。
[問うても、返る言葉は無い]
うん……? うん、わたしがロッカだよ。
「むつか」だけど「ロッカ」。
[和真の視線が手元の葉書と自分とを往復する。
ギャラリーの名を知る人は増えていても、自分を知る者は殆ど居ないはず。
二つの名を口にされて意外そうに瞳を見開くが、続く言葉を聞けば納得が行く。]
ああ。そっか。オーナーに会ったのね。
って、……そんなこと本当に言ってたの…?
あの、省吾さんが。
[面食らったような表情で、つい語尾が上がる。
記憶が確かならばそんなことを言われたことはなかったので。
和真のお上手か、或いは少年が相手だと言う事で色を付けて宣伝してくれたのかも知れない。そこはどうあれ、撮影も宣伝も個人で行わなければならない身としては、一人でも二人でも声をかけてくれたことは有り難いのだった。]
ふふ。何だか、そう言われるとどんな顔をしていいか分からないけど。
お眼鏡に適ったなら幸い かな。
作品の方もそうだと良いんだけど。
[真正面から素直な笑みを向けられると、少しばかり照れくさい。]
何にせよ"此処"から向こうに帰ってからのことだし…
[そう、すっかり適応しかけていたが、此処は現在ではないのだった。
宣伝は妙だったかなあと思いながら、バッグを閉め直して。]
それじゃあ…みんな、また後で。
気をつけてね。
[気遣うような瞳を全員に向けたのは、また妙なことが起きないとも限らないからだ。
海辺の道に顔を並べた面々が思い思いの方向に歩き出し始めれば、皆に手を振ってから自らもゆっくり歩を進め始めた。]
─ 海辺の道 ─
私は…一度、帰ってみます。
此処に和馬がいるってことは、他にも誰かいるかもしれないし。
もしもひとりで居たりしたら不安だと、思うから。
ただ、その…また後で、合流しませんか?
えーと、どこか解りやすい場所…駅前の公園とかで。
何か変わったことがあったかどうか、話し合えた方が良いと思うんです。
[そういうと、風音荘のある方向へと視線を向けて。
それぞれ行く先は別れるだろうから、そう提案をした。
同意を得られずともせめて連絡先を聞こうとして携帯を取り出そう─
そう考えて、あ、と声を上げた。]
しまった…取り上げられてたんだった。
─ 海辺の道 ─
…携帯ないので、その、連絡とかはできません、けど。
皆さん、どうかお気を付けて。
和馬も、怪我したりしないよーにね?
[そう言うと、それぞれ思うところに向かい始めるのに倣い自分も風音荘へと足を向けた。]
─ 海辺の道 → 風音荘 ─
─ 海辺の道 ─
[呆然、と立ち尽くしていたのはどれほどの時間だったか。
がじがじ、と少し乱暴に頭を掻き、改めて周囲を見回して]
……あ。
[海の反対側に、古びた石段を見つけて瞬いた]
………考えててもしゃーねぇ。
行くか。
[しばらく兎が消えたところを見つめながら考えていたが、答えは出ないために頭を掻きながら思考を止めた。改めて進行方向を母屋へと定める]
…お、あそこって確か…。
[目に留まったのは玄関より奥にある、開け放たれた縁側。当時そこは祖父の書斎がある場所だった]
うっは、あるある。
本の数すげー。
[縁側へと向かい、そこから家の中へと入る。入った先で目にしたのは、祖父の書斎に並ぶ薬学の本の山だった]
そういやこの辺のもの、じぃちゃんが死んでから蔵に仕舞っちまったんだよなぁ…。
小せぇ頃は訳分かんなかったし、大学じゃこの辺のは使わないから読んで無かったっけ。
[手に取って中を見ると、昔ながらの薬の精製方法や、薬効についてが書かれていたりする。物によっては古めかしい、手書きで書かれたようなものまであった]
………あれ、この辺りのって本じゃねぇな。
ノート……っつーか、帳面?
[ふと気付くと、本棚の途中から薬学の本ではなく手書きの帳面が並ぶようになっていた。先に進むにつれて、帳面からノートに変化している場所もある]
― 街中 ―
…あ、藍子おばあちゃんのお店。
中学生くらいまであったんだよねぇ。
チカノちゃんや、年上のお兄ちゃんお姉ちゃんに連れていって貰って、さ。
[元来た道を辿る途中、ふと一角に立つ素朴な外装の店の前で足を止める。子供の流行をいち早くキャッチして、駄菓子からトレーディングカード、簡単な玩具まで揃えてあった店。現在は息子夫婦が引き継いで、小さな事務所になっているようだけれど。]
そうそう、此処に縄跳び。
ゴムボールでしょ、当たりくじ付きのガムででしょ、そしてうさぎ!
……うさぎ?
[覚えのある品々の中に、覚えのない動物が居る。
さかさかと動くその白いものをじ、っと見詰める。]
ね ねえ、うさぎさん。
さっき海辺で聞いた話だけど――
[目測を誤っただの、念がどうだの。
まるでこちらに気付かぬかのように首傾ぎ独り言を吐いたのち振り返ったうさぎは、またも一方的に捲くし立てて走り去った。
薄ぼんやりとぼやけて見えるその輪郭に目を細め、ふうと息をつく。]
時空の狭間に落ちちゃう、って。
何か凄いことさらっと言われた気が、するー…
[それがつまり何を意味するのかまでは分からないし、見ず知らずの少女の気配がひとつ消えたことも知らない。
けれども、「ワスレモノ」の重要性がまたひとつ増したのは確かなようだった。]
─ 海岸神社 ─
[石段をゆっくり上がり、たどり着いたのは古びた神社。
4年ほど前だったか、不審火で焼け落ちたと聞いたそれは、記憶にあるのと変わらぬ姿でそこにあった]
……こうやって、なくなった、って聞いたもんと出くわすと。
ほんとに、10年前なんだなあ、って思っちまうなぁ……。
[昔の遊び場の一つの変わらぬ姿に、ふと滲むのは、苦笑]
―街、美容室―
「だってぇ。どーせかたづけても人来ないしぃ?お客さん、隣町のでっかいお店に全部取られちゃったじゃないですかぁ。」
[店の中、現れた「自分」に、派手な化粧と髪の色をした後輩が舌足らずな声で話しかけている。]
「けどねー。それでも来てくださるお客さんいるし、それに、さぼりは店長が許さないと思うなー。」
[それに対し、「自分」が、乱雑に置かれた週刊誌を本棚に並べ、店の奥を見ながら言う。]
─ 海辺の道 → 風音荘 ─
……何だってのよ、いったい。
えぇ、と…時計と相互干渉してたから呼び込まれて、たとか言ってて…
で、力をもらうと…って言ってた、から。
誰か時計に力をあげた人がいて、で、その人は空間の狭間に落っこちた…?
[困惑したままに、兎の言葉を反芻する。
情報を噛み砕いて理解に至ると、青ざめて。]
…それって、すごい、大変なんじゃ。
[ずくん、あの浮遊感にも似た感覚を味わった時から続いている気持ち悪さが強まった気がする。]
「どーせてんちょーも、お客さんこないとこっちこないでしょー。そうそう、それよりもヒナさん、前からみんなで気になってたんですけどぉ、」
[からからと笑って受け流しながら、いきなり話題が変わる。]
・・・!
[この続きを、自分は知っている。聞きたくなくて耳をふさぐが、それにもかかわらず「声」は耳に入ってくる。]
[帳面を1つ手に取りページを捲る。そこに連なる文字は、人の名前と病気の症状、それに対して出した薬について等、様々なことが書かれていた]
…じぃちゃんの字だ。
え。もしかして、これ全部こう言うことが書かれてるのか…?
[開いた一冊を手にしたまま、並ぶ帳面とノートに視線を転じる。これらは言わば客の治療歴のようなものらしい。この薬では効き目が薄かったから、今度はこのようにしてみた、なんてことも書かれていた]
じぃちゃんもしかして……店に立ってた時、ずっと欠かさず記録を…?
[思わず視線が背後の座卓へと向く。そこはいつも祖父が座っていた場所。その座卓は今、自分が部屋で使っていた]
……───え。
[視線を向けた先で、ぼんやりと、座卓の前に人影が浮かび上がる。その後姿に見覚えがあった]
じぃ、ちゃん?
[呼びかけるような、問いかけるような声。そんなに小さくもないそれに、祖父は反応する素振りは見せない。ただ黙々と、座卓に座って何かを書き記しているようだった]
なぁ、じぃちゃんって。
聞こえてんだろ───。
[会いたかった姿を見つけて、足早に傍に寄って祖父の肩に手を伸ばす。けれど、掴もうとした手はするりと祖父の身体を擦り抜けて行った]
っ!
……そっか、10年前の姿だから───。
[触れないし声も届かないのか、と。話も出来ないのだと知り、表情に落胆の色が落ちた]
「再婚、しないんすかぁ?もったいないですよぉ。ヒナさん、美人なのにー。」
[瞬間、「自分」の笑顔が明らかに凍るが、]
「んー。私をもらってくれる相手がいないからねー。」
[軽く受け流そうとする。]
─ 海辺の道 → 風音荘 ─
あぁもう、何なのよ…
[何だか胸が、おなかの中がムカムカする。
食べ過ぎた時みたいだと思いながら、あの兎に思考を戻し。]
…あの兎さん、なんか…
[感じが変わったように思う。
そう口にしようとして、思い返した兎の言動に誰かの影が重なった。]
…あぁ、そっか。
なんか親父に似てるんだ。
[いっぽー的な物言いとか、こちらの都合関係ないところとか。
嫌なところと重なった、とげんなりして肩を落とした。]
[けれど、]
「またまたぁ。わかってますってぇ。前のダンナサンのことが忘れられないんでしょー。
こーつーじこでしたっけー。」
[うんうん。
いかにも「同情していますよ。」という風に、彼女たちがそろってうなずく。]
昔は、よくここに来たっけ
[神社を背に、海の方を向く。
海は静かに、青く、揺らめいていた]
やっぱ、ここから見える海が、一番いいいろしてるよなぁ……。
─ 海辺の道 → 風音荘 ─
…いつからだろうなぁ。
[昔はそんなじゃなかった。
どんな話でも聞いてくれて、何でもまずこちらの言い分を聞いてくれていた。
それが今みたいに変わってしまったのは、いつからだったろうか。]
…あたしが小学校入るくらいまでは、違ってた。
って、ことは…10年くらい前、だから。
…ちょうど、今いる時代?
[思い返したことを口に出して、妙な符合に眉が寄った。]
「けどさぁ。もう5年でしょー?
やっぱ、いつまでも引きずってないで、いいかげん新しー恋始めるべきだと思うんすよねー。
もったいないですよー。
だって、こきょーからカレシも追いかけて来てんでしょー。いつまでもほーちしてると、かわいそーですよー。」
[たまたま見たことあるんですけど、イケメンですよねー。
続ける彼女の言葉に、]
「あの人は、彼氏じゃないよー。ただの幼馴染。夫を亡くして生活が大変なのを気遣ってくれているだけ。
その中に打算や恋愛感情なんて一切ないよー。」
[作り笑顔で苦しい嘘を吐く。]
想いガ、強カッタカラ?
[兎の言葉が相変わらず意味不明]
ソレデ、お嬢サンは無事なのカネ?
[問いもあっさり無視されて、職人は眉を下げた]
ヤレヤレ、のんびり懐かしがってモ、いられナイらしいネエ。
[覚えている。何かと世話を焼いてくれていた彼に、「前の夫のことを忘れることはできない。貴方に恋愛感情を持つことはできない。一緒になることはできない。」とはっきりと言ったことを。そして、彼はそれでもいいから通ってもいいかと聞いてきたことを。それを許したことを。]
「えー。そんなはなしありますー?」
[やはり彼女たちは懐疑的で、]
「あ。そっか。みーちゃん、でしたっけ?
あの子が嫌がってるんでしょ。だから結婚できないんじゃ・・・」
[一人の言葉に「ああそうか。」と全員がうなずく。]
「みーちゃんは関係ないよー。それよりも、エミちゃんはどう?最近、彼氏さんとうまくいってる?」
[いい加減嫌になってきたところで、「自分」も話題変換を図り、そして]
「そーそ、きーてくださいよー。カレったら・・・」
[成功し、愚痴という名ののろけ話が始まったところで、だんだんと「自分」たちの姿が薄くなり、声も小さく消えて行った。]
……今、ここで絵、描いたら。
それ、持ってけんのかな。
[しばし海を見やった後、口をつくのはこんな呟き。
それから、軽く首を振る]
つか、描いてどーすんだよ。
大体、描いたって、見せる相手は……。
[いない、わけじゃ、ない。
貢も六花も見たいと言っていたし。
まあ、今ここで絵描きなどしていたら、貢には確実にイイ突っ込みをもらうだろうが]
…………。
[自分で言って、自分でつけたオチ。
何となく、それは引っかかって。
けれど、なにがどこに引っかかったのかが、今ひとつ掴めなかった]
・・・なんなの・・・
[ふらふらと店から出る。]
「思い出」って、これのこと?これが、私が思い出さなきゃいけなかったことだとでもいうの?
[そんな馬鹿な。
そして、それを思い出したからと言って、なんになるというのだ。
この場に連れてきた変な生き物に文句を言いたくなった丁度その時、]
[カツン、とステッキを鳴らし、職人は、傍にいる二人の若者を振り返る]
ドウヤラ、ここに居るのは、ミンナ、ワスレモノをした人ラシイ。
ソノ中に、鍵と螺子も隠れてイルかもしれないヨ。
ワタシは、ワスレモノだらけだけれどネ。
[そう言って笑うと、二人の顔を交互に見た]
キミたちは、何をワスレテいるノかナ?
─ 海辺の道 → 風音荘 ─
…あたしの…ワスレモノ。
[父親の変わった理由が、そうなのだろうか。
解らない。
新しい困惑に小さく頭を振って。]
…まずは、風音荘に戻ろう。
[ここで考えていても、答えは出なそうで。
まずは、気がかりを一つずつ潰していこうと、足を進めた。]
─ →風音荘 ─
…じぃちゃん、何書いてんだろ。
[自分に背を向けたまま、黙々と何かを書き続ける祖父。どうせ気付かないんだからと横から覗き込んでみたが、何故か影になって内容を読むことが出来なかった]
ちぇ、見れねーとかなんだよこれ。
……ん?
[覗き込む姿勢から背筋を伸ばして、つまらなそうに唇を尖らせる。視線を別へと向けた時、座卓が置かれている側の壁に張り紙があることに気付いた]
「薬師の道は日々是精進」
………なんだこりゃ。
つか、薬師って───……あれ?
[訝しげに眉根を寄せたあと、何かが引っかかり僅かに首を傾ぐ]
…そーいや、前に何か聞いたことあるな、このフレーズ。
他に続きがあったような……。
[うーん、と唸って腕を組み、どうにか思い出そうとするも、すぐには出て来ない。その間に祖父が書き物を終え、書き留めた紙を封筒に入れて封をし、傍にあった小箱に封筒を仕舞いこんだ。その作業の途中、封筒の宛名が目に入り、あ、と小さく声を漏らす]
俺宛…?
貰ってねーぞ、あんな封筒。
あっ、待てじぃちゃん!
俺ここに居るんだからそれ寄越せ!!
[祖父は小箱を手にすると立ち上がり、どこかに持ち出そうとしているようだった。思わず声を上げるが、それが祖父に届くはずも無く。こちらへと向かって来た祖父が目の前で掻き消えるのを呆然として見るだけになってしまった]
…………結局、なんだったんだ。
[10年前の自分が知らぬ出来事を垣間見ることは出来たが、それが何を意味するのかまでは判明せずに終わった]
……ワスレモノ……か。
[何となく、心の内側に生じたもやもや。
これが、ワスレモノに関わるのか、と。
そんな事を考えつつ、神社の方に向き直る。
ここは確か、海の安全を護る土地神か何かを祀っていた神社で。
伯父が神主をやっていたから、その縁で掃除やら何やらにかり出される事はよくあった。
その時は大抵、いとこたちも一緒にいて──]
はぁ・・・
[帰るどころか、別の場所に閉じ込められるかもしれない。そんな話を聞かされて、それでも、やはり「ここ」で「何か」を見つけるしかないようで、その場に立って思考をめぐらす。]
10年前・・・
ワスレモノ……わたしの、忘れ物。
この位の頃って、確か―――
[大分歩いて来たからか。背にした海は、住宅地の隙間に小さく煌めいて見えるだけ。
振り返ってその碧を瞳に映すと、きゅ、と、肩のバッグに添えた手に力が入った。]
[けれど、]
なんで、15年前や6年前じゃないのかな・・・
[やはり引っかかるのはそこで、]
昔から辿って行った方がいいかな・・・
[ポーチからメモとペンを取り出した。]
……そういや、行ってねぇなぁ、墓参り。
[昔の事を思い返していて、ふと、ある事実に気づく。
同時、浮かぶのは苦笑。
一つ息を吐くと、さっき兎の登場で吸いそびれた煙草を改めてくわえて、火を点けた]
15年前の5月、交通事故・・・
[そこは思い出したくもないから、さらっと飛ばして、]
故郷にい辛くなって、こっちに引っ越してきて、それで・・・
[居場所を伝えたのは自分の家族だけだったはずなのに、わずか1ヶ月後、幼馴染が追いかけてきた。]
最初は、すぐに追い返したんだよね・・・
[何を思っていたのか丸わかりだったから、はっきりと、帰れと告げた。]
─ 風音荘 ─
…戻ってきた、はいー、けど…
[10年前のこの場所とは縁が無い。
ここに戻るまで誰にも会わなかったのだから、多分いないとは思うのだけれど。]
10年前の人がいたら、あたしってただの不審者じゃない?
[そう思うと、玄関をくぐる勇気がもてなかった。]
なのに、
[彼は諦めなかった。「それでもいい」と、近くに部屋を借り、毎日、片道3時間かけて会社と家を往復していた。]
ただ迷惑でしかなかったんだけど・・・
[いつしか根負けして、彼を家に招き入れた。]
[>>88ズイハラの言葉におもわずくすりと笑がこぼれる。]
ほんと、そうですねぇ。
消えちゃった子も、私たちも、結局私たちがワスレモノ、見つけないといけないってことなんでしょうか。
[一体何人いるのかなんて分かっていやしなかったけれど。]
わたし、風音荘に戻ってみます。
[そこかしこに友人の面影は眠るけれど、色濃い場所はやはりあの下宿だろう。
10年前ということに意味があるなら、きっと彼女にまつわることなのだろうと思ったから。]
どうして人って忘れちゃうんでしょうね。
忘れたいわけじゃないのに。
[>>94ちょっぴりふてくされたように、困ったように頭をこつんと叩いてみせた。]
『高校は、普通に進学して。大学は?その後は…?
美大…じゃあ、奨学金は難しいのかな……』
『………。そうだよ ね。
これからは独りで立たないといけないんだから。しっかりしなくちゃ。』
[寄せては返す波の煌めきに呼応するよう、ざわざわとした雑音が響き始める。
聞き覚えのある声のうち、一際近くに聞こえる声は、自分自身のもの。]
『提出期限?
…うん。明日なの。』
『……どう、しよう』
[そうして声は掻き消えた。]
………。
[長く黒い服の裾が、目を放せずに居た遠い波打ち際に翻ったような気がして。
今一度目を伏せると、一気に街を突っ切るよう走り出した。]
それから4年して、みーちゃんもとても懐いて、彼も、みーちゃんに優しくて、それで、結婚を決めたのだっけ・・・
それから・・・
[不安はあった。血の繋がっていない親からの虐待は、現在も社会問題になっている。
彼も豹変してしまうのではないかと怖かったのだが、]
結婚してからも、ひろ君が生まれてからも、ずっと、彼はみーちゃんのことも愛してくれていて、それで、最近は・・・
「みーちゃんが最近なかなか家に帰ってこないのは、俺のせいか?」
[よく、とても不安そうに尋ねてきていた。だから、大丈夫。そう思う。]
[紫煙を燻らせ、ぼんやりと海を眺める。
昔よく、絵描きに来た場所。
ここで使い潰した色鉛筆の数は覚えていない。
特に、青と水色と白は、あっという間に使い潰していた]
……描いても描いても、ケチつけやがったよな、そーいや。
[ぽつり、呟く声は少しだけ不機嫌なもの]
―海―
しっかしコレ、何の曲だろ。
サビのメロディだけ聞き覚えあんだよなー……あ。
[ぼそりと呟いた。ところで目の前が開ける。
言われていた通り、見渡す限り人影は無い]
─ 風音荘 ─
…どうしよう。
誰かいるか確かめたい、けど。
[中に入って10年前の誰かと鉢合わせたりしても、上手くごまかせる自信はない。
玄関前で立ち往生している時点で既に不審者であるという自覚はなかった。]
違う。私自身の、ワスレモノ。
これは、「今」このとき忘れて来ていたもので、みーちゃんと彼は、関係ない・・・
[だとしたら、全く関係のないことか。
つぶやき、もう一度メモを見る。]
ワスレモノ………か。
[自分は何かを忘れていて、そのために10年前に飛ばされて。そうして目にした光景は、何か意味を持つはずなのに、それが分からない]
10年前、何があったっけな。
[縁側から外へと出ながら思い出そうとしてみる。大きな出来事だったかもしれないし、日常的なことだったかもしれない。どれがワスレモノに関わっているのだろうか]
あん時俺は16だから、高校入った辺りなわけで…。
[そんな風にぶつくさ言いながら、進路は駅前の方へと向かって行った]
―海―
……え?
[振り返る]
誰か、喋った?
[男か女かもよく分からない幼い声。寂しそうに言うのが確かに聴こえた。
けれど子供の姿なんて、どこにもない]
・・・あれ・・・?
これ、は・・・
[時系列に目を留める。
「15年前、夫死去」
「その後、この町に引っ越し」
「1ヶ月後、幼馴染が追いかけてくる」
「4年後、家に招き入れる」
つまり、]
彼を家にあげたの、ちょうど、このころじゃない・・・
[今の状況から考えて、これは偶然ではなさそうだ。]
[今の仕事は決して楽ではないけれど、自分の手からなにかを生み出すことは楽しくて。。
けれど、もともと裁縫が得意だったのは友人のほうで、彼女は不器用なアスカを笑いながらも根気強く付き合ってくれたものだった。
最初は半分意地になっていたようなもので、昔の自分がみたら目をまあるくするのかもしれない]
そうなのよ。
菊子ちゃんもうさぎさん、あった?
困ったことよね。
いつのまにか戻ってる、なんてのは期待できないみたいだし。
[先程の消えた女の子の話をしながら、ひらいた扉の先はガラン、としていた。]
……んでも。
[不機嫌に呟いてから、ふと、感じたのは疑問]
俺、なんであんなにムキになって描いてたんだっけ?
[10年前は、何枚も描いていた、絵。
それから2年後には、ほとんど描かなくなっていた。
その間にあったこと──あったこと?]
……そういや、10年前、って、ちょうど……。
行って来るトイイヨ。
想い出ガ、呼んでイルのカモしれないからネ。
[アスカと、ズイハラに、そう告げる。けれど職人は、公園から動こうとはしなかった]
・・・みーちゃんだ・・・
[毎日のように家のチャイムを鳴らし続ける彼に、自分と同じように冷たい視線を投げていた娘。
彼女がいつからか彼に好意的になって、]
「私、おじちゃんだいすき!おかあさん、私、おじちゃんにお父さんになってほしい。」
[毎日のように言われたのだった。]
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