そうか。あれからもう10年経つのか。
[目の前にすぎていくアン・シティ。
目を細め、そして、個室の列車窓を少し開き。]
警察もあの頃に比べると優秀なものじゃのう。
[出したハンカチ、くるくるとまとめ、手のひらを開くと鳩が飛び出す。
その鳩を窓の隙間に近づけると、それはあっという間にアン・シティの空に融けた。]
― ドゥ・シティ 列車ホーム ―
[そして、ドゥ・シティの大きな駅。
過ぎ行く列車の束を前に黒い帽子を押さえて立っている。]
10年前もこうやって目指したのう。**
さてに、
この世の中には様々な猫がいる。
猫は時に人の形をし、
猫は時に宝石になり、
猫は時に形のない時間になった。
[駅のホームのベンチにかける]
[黒い猫は、
その中でもなにより。
唯一であり、すべてである。]
すべて順風満帆な悪人など、
いてはならないと思うのだよ。
君はどうかね?
[ドゥ・シティの駅のベンチで、ぽそりと]
[その声は誰かにきこえたかきこえなかったか。
ともかく、駅のホームのベンチから立つと、
その姿は、人ごみに掻き消えた。]
― ドゥ・シティ[魚市場]―
しかし、仲間を捕まえさせて、姿をくらますか。
これも10年前と同じじゃのう。
あの時は、あいつもただの悪党だったが・・・。
[広げる夕刊、その片隅に、大福たるあだ名を持つ男の逮捕劇のワンショットがあった]
まぁ、うまい魚でも食うか。
[大福は簡単に捕まる男ではない。
だが、その逮捕は見事なもののように描かれていた。
しかし、警察も、そこに密告たるような情報を載せてはいない。]
自らが無能であることは好評しないのかね。
[チラリみやる魚市場の大きな時計。
夕暮れは、また朝とは違うにぎわいを見せはじめている。
観光客に混じり、うまいリゾットを食わせるという店に入った。]
[そこで鼻をいじりながら、バジルの大盛りを頼み、やってきたボーイにチップを弾む。
耳打ちしたあと、また新聞を眺め、
やってきたアツアツのリゾットの上、バジルの葉をどさりかけて、陶器の匙でそれらを混ぜ込む。
一緒にやってきたのは、スパークリングワインと黒ビールを割ったブラックベルベット。
それらに舌鼓を打ちながら、
熱い湯気が消える頃、胸のネクタイを指でつまみあげた。]
おい、君、
黒胡椒を持ってきてくれないか?
[問いかけるのはさっきのチップを弾んだボーイ。
彼が頷けば、飲み物に手を伸ばし]
[飲み物を飲み干したあと、
ボーイがもってきた胡椒引きに頷いて、席をたつ。
そのまま手洗いにいくと見せかけて、向かうのは・・・。**]