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虫がついている。
[マシロの背中に手を伸ばそうとして気がついた。
彼女の瞳の先、ネギヤの姿があることを]
君にも見えているのか?
[嫌な汗が背中を伝い、窓から風が吹き付ける]
マシロ君。
[目の前にいたはずの村長の娘の姿が消えた]
まさか……。
[窓から乗り出し外を見つめる。
波打ち際で見たネギヤと同じような、マシロとそしてギンスイの幻影が見えた]
辻村さん。
[消えたギンスイを探しに行こうとするエビコを止めようとしたが、呼びかけただけで言葉が続かなかった]
いえ、何でもありません。
[ゼンジの表情を見て、やはりと顔を曇らせた]
落ち着こう。
こんなことがあるわけがない。
[テーブルに近づくと、広報誌のお悔やみ欄が目に入ったが、見ないようにと目をそらした]
[紙を覗き込む少年とその肩の猫とを一撫でした]
温かい。
[当たり前のことなのに、ホッとした。
人差し指でメガネの位置を直す。
顔を上げると横切るマシロの姿が見えた]
そんなことがあるわけがない。
[それだけ言うのがやっとで、部屋を出て行こうとする。
扉の方へ向かい、しゃがみ込んでいるホズミに気がつく]
座るなら椅子にした方がいい。
おまえらも、夜は寝ろ。
[室内に残る人々にそれだけ言って、手ぶらで*眠れる部屋へと*]
船はまだか。
[目覚めの一服をふかしながら、波打ち際を歩いていた]
……何をしている。
[人影に声をかけるが、それは薄ぼんやりと光ってすぐに消えた]
死亡届。
[宿舎のテーブル上にある用紙の一枚に、赤い文字が見えた]
死亡……。
[目眩を起こしかけテーブルに手を置いて、席に着いた。
急転した天候、崩れる足場、回る風景――]
[いつか見た景色は、消えた三人のいずれかの物のようにも思えた]
違う。
あの日俺は。
[封筒から取り出した書きかけていた手紙の隅、手近のボールペンを手にして文字を書き足す]
ナツへ
ママをよろしく。
ママへ
ナツをよろしく。
[その紙面を見て、苦笑を零した]
まるで遺書だな。おい。
[目の前のエビコから目を離し、窓辺を見やる。
そこに見えた人影の名は呼びもしない]
……気が振れそうだ。
[窓から吹き込む風は穏やかに頬を撫ぜていく]
そんな馬鹿な話があるわけないじゃないですか。
あるわけがない。
[手元の封筒に住所を書き込み、おもむろにエビコに差し出す]
ああ、そうだ辻村さん。
これ投函してもらっていいですか?
[鈴木の笑みにつられるように表情を緩める]
船が来たら帰れる。
[エビコの問いには肩を竦めて]
俺は死んでる気がしますよ。
ネギヤ君とギンスイ君、マシロ君だけならまだしも
……何だったかな、この村に来てすぐ亡くなった
[本棚の脇を一瞥する]
小森さん夫婦まで見える。
あとは、モンペ姿の顔を知らない人だとか。
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