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[透白な頬、零れるほどに見開かれた瞳。
もがくかたちに強張る手足は、
腱を切らねば伸ばせない硬さ。
檻から引きずり出せば、水吐くしかばね。
何かの拍子に震える声帯が、断末魔めいて
ごあ、あぁァと奇妙な音を撒き散らした。]
[桟橋に乗り上げた船の残骸――己が常宿を
見遣って、斧担ぐ壮年の男が溜息をつく。]
…さすがに、もどる気がせん。
[供儀の昨晩、男がいずこへ一夜の宿りを
求めたか――あるいは心当たる者もあろう。
檻もろともに波をかぶったらしき塒の船は
さておいて、斧の頭が地へと下ろされる。]
ふむ…
[死骸を前に一同を見遣り*顎を撫でた*。]
[陸にあっても、耳奥には気泡昇る音。
――ドラウグ。
その名で伝わるものは、増えたひとつを見る。]
…
贄は、穢れ損ねていたらしい。
[呟くのは、不都合の所以。
蹂躙し尽くされた筈の贄。堕ちたは潜まぬ魔。
女が最期に他者の為に祈った故も先も知れず。]
ウ
そんなにも魔性露わに 膿まれつく とは
…従士長殿、
[えづく赤毛の男へかける声はかつての呼称。
したたる黒い粘液にみるのは昨夜の予兆――]
魔物 … ――そのようなものに
生贄を捧げるという話では…
なかったはずだが、
[違ったのか。違ったのだ。
魔性露わな徘徊者の存在。
遠い納得を示すように、語尾は続かなかった。]
[火にまつわる記憶がある。]
[語らいを持つのは、いつも暖炉のそばだった。]
[家族愛溢れる一族だった。]
[近年に隆盛を迎えた家。
たえずあるはずの来客の合間を縫って、
設けられるのは旧交温める静かな時間。]
[友たる邸主が好み燻らせる、葉巻の濃厚な紫煙。]
[美しいが気取らぬ細君の、心行き届くもてなし。]
[彼等に子はふたりだったが、一族の誰かしらが
入れかわり立ちかわり来て子守りの輪に加わる。]
[懐かぬ長子は、然し弟をよくかわいがっていて。]
[愛情深い邸主は、自らの子供らのことばかりか
親類縁者子々孫々、一族の行く末について腐心し、
如何に情愛を注いでいるか友人へ語って聞かせた。]
[やがて明るみに出る一族の不正が
友人の情深さからきたものかどうか、
――――今となっては知る由もない。
内偵官から聴取り調査の要請があった夜、
死刑執行人はためらわず己の胸を突いた。]
[処刑は酸鼻をきわめた。
台へと据えられる首を、ひとつずつ落とす。
罪の首魁――当主夫妻へ見せつけるように、
血の薄い者から読み上げられる順に従って。
未だ癒えぬ傷は、包帯ごと分厚い制服の下。]
[囚われなかった長子の名は…呼ばれない。
血河が観衆の足元を縫って流れ出すころ、
やがて呼ばれるのは、友人の下の息子の名。
捕吏の情けか、緩んだ縄から逃れ
処刑台から駆け出そうとする彼を
表情動かぬ処刑人の斧が、
かがり火はあかあかとつめたく燃えて、]
その先ごとに、ひとつずつ。
[調査予告直後に起こった、自殺未遂。
一族の不正疑惑を確信へ決定付けた一件。]
思いつく限り、
辱めて、
[告発を経て後かの一族が連座となり
公開処刑場へと引き据えられたとき、
斧を携え佇んでいたのは――この男。]
最期は肉を。
…彼は、
不正で連座処刑を受けた一族の 子弟だな。
[くろぐろと示されたヘイノの名を受け
伝えるのは、いまひとりの同郷の士へ。
一族と交友あった執行人が自害を図ったと、
そのような記録が付随する一件を簡潔に。
妄執の僧へ口を挟むのはためらわれ――
猿轡の道化と無気力な男へ見解を添えた。]
… 殺すもの である*らしいよ*
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