[ペッカがベルンハードを殺そうとしている。
そう思った瞬間、顔を両手で覆ってしゃがみ込んだ。]
ああぁ……
[低く唸って周りの音を遮断していたが、やがて恐る恐る顔を上げると、そこには金色の、狼。]
[ひとしきり泣いた後、町娘は立ち上がって、体の重さに俯く。
薄暗い廊下の隅に丸いものが落ちていた。]
種も仕掛けも、ございません。
[拾い上げたボールを手のひらで包み、持ち主のいる場所へ向かおうと歩きだした。]
―― 詰め所 ――
人狼は死にました。
[静かに告げた少女は、自警団詰め所裏手へ向かう。
掘っ建て小屋に安置されたラウリの遺体に近づいて、ボールを傍らに置いた。*]
ショーは終わったのでしょう?
―― 森の奥 ――
[寂れた小屋のある、さらに奥に佇む人影。
町娘が手にした茶色の瓶から注がれる黄金色の液体は、芳香を残して地面を湿らす。]
はぁい、ベルン。
今なにしてる?
[そこは遺体が埋まっているわけではなく、見上げれば楡の木が葉を生い茂らせているだけの場所。]
[金色の狼がベルンハードなのだと説明したときの大人たちの反応も、それを否定しようとした宿屋の主人の表情も、葬式への参列を許してはくれなかったドロテアの父の言葉も、忘れられはしない。]
ウソでもいいから……ううん。
ウソなんだって、言ってよ。
[町娘は、あの日以来、涙を流さないようにしてきた。
見上げた木々の隙間には空が見え隠れする。]
[その場から離れて、村の方へと歩き出す。
一度振り返ってから、駆け出した。]
[遠くとおく、か細く聴こえる、狼の声から逃げ出すように。*]