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―1963・神社―
[風が吹く]
貴方の考えは解した。
[封書を小脇に一挙に振り向く。
マフラーが半ば解け、その端が舞い踊り。
た ん――。
風を纏い、参道を蹴った爪先。
先刻とはうって変わり、幻の儚さに似た軽い足取り。
医者の目前へ、下り立った。]
教えてあげよう。
日光に当たると爛れるのは本当、灰になぞならないよ。
ただ―――……
[そこで言葉は区切られる。]
[黒眼鏡を外す。
細めた蒼い瞳で、医師の姿を見詰め
彼の耳元へ、唇を寄せた。]
結城―――。
ワタシに何かしたか。
貴方と会い風が吹いてからこっち、変な心地だ。
[此方に仕掛けられたは興味のみであったとしても、察せずに*無表情*]
― 1963・神社―
覗いてみたい だって?
……へえ。
貴方の、その興味の所為で
[この相手が何者であるか
観察する間がしばし置かれたのち――
溜め息と、微かな苦み帯びた笑気が零れる。]
どうやら。ワタシは、去らねばならない らしい ね。
結城。
[マフラーを巻き直す。眼鏡をかける。
頭へ刻み込む態で、代々続くその家名を一音ずつ、声にだして。]
……。
どうも、わからないね。
そんな興味に意味があるか が。
[やがては、踵を返した。
風の中に紛れるように、小さくなりゆくレンの後姿。*]
―1963 向日葵の迷路―
[濃厚な草いきれ。土の匂い。
沢山の、太陽を思わせる大輪の夏花。]
[向日葵迷路の入り口を、
ごくごく微かな足音をたてて過ぎる。]
[して。
逆に舞う人の影を、遠くにのぞんだ。*]
―963 向日葵迷路―
六月さとりの艶気まで
あと<33>歩くらいか。
[淡々と進む。
先の風の導きによって、今は視える道。]
このまま行くと、村へ戻れなくなるよ。
おかえり?
それとも。出口はあちら が適切かな?
[足を止めないまま
己が進行方向と、逆の方向を指し示した。]
―ひまわりのまよいじ―
[歌姫のふくれ面へ鼻を鳴らした。
六月さんの艶は、特別。
あの域へ達すのは非常に難しい。なんて思惟。
だが。]
正直を言えば、六月さんの歌より
貴女の舞いのほうに惑わせられるね。
―――ふ。
神隠しは終わった のか…。
だとしても、自ら出向くことはできるだろう。
[背の高い向日葵たちの影が、行く先に伸びている。
それらの陰りの濃いほうへと進みつつ]
日光がささない、暗くて涼しいところ。
休むには丁度良いんだよ、ワタシにはね。
[少し、掠れる声。
此方へ伸ばされる手が、視界の端に映る。]
何故、ついてくる。
そんな風だと、このまま連れていってしまうよ。
[その手首を強く掴んで、引き寄せようとした。
その時、]
―昔々のお話―
[水芙蓉の精霊の棲む湖があった。
ある日のこと
湖へやってきた人間と水芙蓉の精霊が出会い、
たちまち、人間と精霊は恋に落ちた。
精霊は人間の手を引いて、湖面の下へ消えた。
そうして精霊と人間は、向こうで添い遂げたという。
そののちに
水芙蓉の湖から現れた、子供が一人。
この子供は、あの精霊と人間の間に生まれたという。
水芙蓉にちなんで子供は蓮と名乗り、蝶々を飼って人間たちの世界で暮したそうな。]
―現代―
たこやき!イカやき!
[屋台を覗きこむ。
するとただでさえ視界が悪いというのに、
立ち上る湯気で黒眼鏡が曇りまでする。
似てる、か。
似てる、は、…ワタシも時々、言われるなあ。
[少女に応じつつ、あたりを見回す。
「ぼっちゃまー!」なんて叫んで追いかけてくる姿――
追手らの姿は見えない。
と確かめ、鬱陶しい物―黒眼鏡と帽子とマフラーを外した。
現れたのは、あどけなさ残した十代後半の顔。
その瞳の色は、黒。]
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