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−玄関口−
わたくし、天ぷらがいいですわ。
[何食わぬ笑顔でゲッカの背後に姿を見せれば、囁くように夕食の献立を主張した。居並ぶ男衆には、深々とお辞儀をする。]
チカノと申します。どうか、お見知りおきを。
それで。どちらがあやかしさま?それとも、皆様そうなのかしら?
[小首を傾げ、いつもの笑顔にも少し困ったような表情を混じらせている。そうして少女は、まるで若女将が天ぷらを作るのを見届けるかのように、その後を追いかけて行った。**]
あら、ざんねん。
どんな殿方かしらと思ってましたのに。
[笑い声に、いたずらっぽい響きが混じる。
後を追うように廊下を歩きながら、その着物に手を触れて、
少し驚いたように、囁いた。]
とんだ災難ですわ。
わたくし、人の世を見ていたいだけですのに…。
[言葉とは裏腹な、興奮したような、熱っぽさを帯びた囁き。**]
−食堂−
あら。今上の御代だって、人は亡くなりますわ。
だって…人を殺めるのはいつの世も人ですもの。
[さして深刻な表情でもなしに、
少女は箸を置いてンガムラの言葉(>5)を引き取る。]
きっと、あやかしさまはお怒りになってますわ。濡れ衣だって。
[そう言って、ンガムラをちらりと窺ように見やると
なにくわぬ顔で酒のなみなみと注がれた杯をくいと飲み干した。]
…そんなことより、わたくし思いますの。
[かたん。と膳に杯を置くが少し高い。]
どうして皆々様、
着物をお召しなのかしら?
それこそ大正のこの世に、ですわ。
ねえ、ツキハナおねえさま。
きっとモダーンがお似合いと思いますの。
だって、こんなにお綺麗…なんでふもの。[少しろれつが回らない]
あん…
らって、禁酒令は…やぶるはめにはるの…よ
[ふらふらと揺れる三つ編みのまんなかを、ゲッカにぶたれて不服そうに振り返る。返して欲しいと、奪われた杯に伸ばす手もそのままに、がたんっ…と派手な音を立てて少女は膳につっぷした。すっかり空となった三合の徳利が、ころころと転がっている。]
飲まずにはやっていられませんわ…
だって、わたしくし…死にたくないんですもの…
でも、やるわ。
そう…バレないように…無理かも…しれないけれど……
[おでこに衝突した膳の痛みに、ぐぅと小さく、唸りながら。]
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