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……。何を、しているの…?
[どこかうつろで、感情の抜け落ちたかの声。
それへ僅かに眉を顰めて傍へ寄る。
移動は滑稽なほどに容易で、生前の不自由とは比ぶべくもない]
そんなところで。
[そこは死のはじまりの場所。
彼女の事情の仔細は知らず、女は僅かに首を傾げた]
…人として、なんて。
やっぱり、
ひどいことをおっしゃいますのね。
[ニルスの言葉に。
いっそ穏やかで柔らかい笑みを
困った風に浮かべたのだった*]
…… さあ。
何を、したらいいかな。
[気配が傍に寄ってきても、アイノの目は前の場所を見たまま動かない。
そもそも誰と認識もしていないのか、年上の彼女に向ける言葉は敬語ではなかった]
全部、夢の筈だったのに。
[或いはただの独り言だったのかも知れない]
夢……?全部が?
[独語のように響く言葉に、
鸚鵡返しに問い返して、口を閉ざす。
思考する少しの間。先の自分を、思い出した]
夢…、ああ。
あなたも死を──…夢だと、思っていたのね。
[声の後半は僅かに低くなる。
過去形で語られるならば即ち、彼女の夢は破れたのだろう]
何をしたら……、
[呟かれた言葉に、心が痛んだ。
目の前に佇むのは、生前消極的な殺意を向けた娘。
彼女を死なせた罪は女も負うものだ。
けれど同じく死者として相対せば、
自責よりも哀れみが情としては、より勝る。
或いは贖罪でもあるのかも知れないけれども]
…、あなたには大切なひとは、いないの?
全部。
血も、星詠みも、投票も、痛みも、人狼も、ナイフも。
全部、悪い夢の、筈だったんだ。
[視線は落ちて、床を見る。焦点は合わない。
声はまるで泣きはらした後のようでもあった]
でも、終わっちゃったんだって。
……目、覚めてないのに。
[呟いて、沈黙した。
その場所から動こうとは未だ、しない**]
…そう。
[鏡を見ているようだった。
現実を拒絶した彼女の姿は、あたかも昨夜の自分のよう。
それでも、あの時自分はまだ生きていた。
温もりをくれる人が傍らにいた。
けれど終わってしまったと口にする、彼女の絶望はなお深い。
女は言葉を失って、口を噤んだ]
ごめんなさい。
[小さく囁くように口にして、その場を離れる。
居間に向かわなければならなかった。
胸騒ぎがする。──ひどく不吉な予感がして*いた*]
[ウルスラ家へこしらえものをとりに行くようになったのは
彼女が出掛けていた時に杖を折って困って居るのを
助けたことが切欠だったように覚えている]
[出来て居れば受け取って
出来ていなければ軽く雑談でもして――]
[海の近くのレベッカの雑貨屋に持って行って]
[漁の帰りのマティアスと会えば余った魚を貰う事も]
[教会に持って帰るとドロテアが喜んで
彼の元にお礼を言いにいったこともあった]
[アイノが村に来た時はゲルダに挨拶もした覚え]
[――――日常。]
[この村に着いた時イェンニはまだ小さかった。
だから自分が産まれた時、
背に桔梗色の鬣があったなんて知ることはない。
ただ危険だと捨てられて。
この村の神父に拾われて。
その後にドロテアが拾われてきて――
おだやかな毎日を過ごしてきた。]
[神父が亡くなってからは姉妹で暮らして来た。
ドロテアは村の機織りの手伝いに毎日でかけ。
自分は教会をまもり過ごして行く
そんな日々に罅が入る音は 微かでも良く響いた]
―居間―
[クレストの持ってきたナイフ。
その行く末を見据える。
血に染まる居間。
血に染まった友の背を、見据える――]
[他ならぬ、友が手を血に染めるのは。
自分がきっといないからだと思えば。
何も言わず、ただ、見守る]
[ごめん、すまない、謝罪の言葉ばかりが口をつきそうになっても。
届かないそれらは自分の慰みにもなりやしない。
だから、しゃっくりを堪えるように、息を吸うた]
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