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[部屋に忍び込んで一望する。
抱えあげたのは、先ほど布団へ潜ったばかりのエビコだった。
管理棟を抜け出すと、一番近い桜の木へ向かった]
はぁ……。
[エビコを抱えたまま、満開の桜を見上げる。女が身じろいだ]
寒さも間もなくなくなります。
[声をかけると、息が真っ白に現れ視界が霞む。
さく、と足音が聞こえて振り返ると]
乃木さん?
[そこに立っていたのは、鉈を手にした男だった]
放って置いて下さい。どうか。
[その声は、乃木に届いたのかどうなのか。
桜が揺れ、花びらが舞い散った。
風が遠吠えを模すように吹き荒れる]
[しばらく肩で息をしていたが、水を汲んでうがいをした]
けほ、けほ……。
[声を押し殺し、ぐっと目をつぶる]
[落ち着きを取り戻すと、再び管理棟へ戻り毛布に包まる。
ポケットから取り出したサイコロ型の物体は、昨日と同じ花が一輪*増えていた*]
『ちいさなこえが 胸をさし
きらめくつめは 傷きざむ
かくれたなみが うちよせて
いつあえるのか 涙ぐむ』
[子守唄のように響き渡るのは、ソプラノのせつなげな声]
[朝、目覚めると部屋の中を見回す。姿が見えない人もいるが、周囲の見回りでもしているのだろうか。窓の外に目をやれば、昨日よりも艶やかな桃色が舞っていて、しばし目を奪われる]
餌か……
[昨夜のノギの言葉が頭から離れない]
落とし穴でも掘るのか
でもこの中に犯人がいるなら、手の内さらけ出してるから無意味だな
[犯人逮捕なんて難しいのだろうな、とひとりごちる]
[眠るヨシアキの様子を見ながら、メモ帳を取り出して昨日見聞きしたことを備忘録として書き込んでいく]
ひとつめのたましい……
ふたつめ、みっつめと増えていくのだろうか
[コルクボードに貼られた遺体発見現場地図を眺めて、メモ帳にトレース*していく*]
[部屋を出てトイレに用を済まし帰ってくると、微かな違和感に気づく。
[一つはナオが眠りもう一つはこれから畳む自分の布団、もう一つの布団は畳まれていないまま無造作に置かれている]
布団も畳まずに行ってしまうなんて何か急ぎの用でもあったのかしら?
[虚ろな記憶でエビコがそこに居たことは覚えていた]
[自分の布団を畳みエビコの布団も畳むと居間台所にエビコがいないか探してみた]
いない。井戸へ水を汲みに行ったのかしら?
[管理棟の周辺エビコを探したが見つからなかった]
[もう一度みんなの休んでいる部屋へ戻るとナオと一緒の布団でロッカが寝ていることに気づいた]
やっぱ布団も畳まずに外出するなんて変よ。
ノギが何かを見つけてエビコを呼び急いで向かった?
[推理を巡らすが解決はしない。上着を羽織りエビコを*探しにいくことにした*]
[誰かの声が聞こえ、うっすらと目を開ける。
明るい場所、居間、だろうか。そして目の前には、掌サイズの白熊のぬいぐるみ。
しろくま?
覚醒しきらない意識を動かして、周りを見る。声の主はフユキ先生だった。
ほわり。胸の呪符がやわらかい暖かさを運んでくる。
先生は物の怪じゃない。安心していいんだと]
[頭が少しずつ覚醒するにつれ、昨日のことを思い出す。
昨日…ヌイさんと話そうと2人で書庫に行って…ああ、話そうとしてたはずなのに。緊張して勢いのあまり払おうとして…ああ、本棚にぶつけられて気を失ったんだなと。
そこで、ふと疑問に思い、右手を開いたり閉じたりする]
俺、生きてるよな…殺されて…ない…
[物の怪が俺を見逃すのか…
そう考えると、ヌイが物の怪なのは間違いなのか、とまた頭の中がぐるぐるし始める。
どちらにせよ、ヌイともう2人で会うのは難しくなる。物の怪だとしたら、これから俺はどうすればいい…
天井を見上げたまま、*深い思索に没頭していった*]
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