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あんたに昔、何処かで出会った気がすんだよな。
何処で……――だったかなあ。
[脳へと伝える声音は、ひどく呑気なもの。
今まさに死の窮地に立たされている男が発するものにしては
穏やかで、落ち着いていて。]
………?
会ったことあるかしら?
[この殺意や疑心暗鬼が渦巻くなか、
突如聞こえる暢気な聲。
遠い、遠い昔の記憶。
何百、何千の出会いがあるなかで、
ミハイルの事なんてすっかり忘れている]
ねえ、あなた、抵抗もしないでしぬの?
[皆の殺意はミハイルへと向いている事を察して。]
曖昧なもんでね。
生きてたのは200年以上前の事だ、どうかな。
[不思議そうに尋ねる声に、
此方もはっきりとは解らないと告げて。]
ハンデがありすぎるだろう。
俺とこいつらじゃ。
[盲が一人掛かってこようとも、別に。]
今なら。
今なら、私はこっそり包丁を持ち出して。
ユノラフさんの背中に突き立てることが、
[出来るでしょう。
暖炉前から離れた所に立っているのは…だけ。
今いなくなっても誰も気づきはしない。
生きたいのなら、生きる気があるのなら。
一言言えば良い。
──助けてくれ、と。]
そうよ、皆、幸せになるもの。
だから。
[だから、苦しそうな人間を助けたりもしたのに──。
憎悪や恐怖に流されて。
ニルスに対して死ねと言っている。
ユノラフを刺しても良いと言っている。]
嫌ね、私、にんげんみたい。
[にんげんじゃないのにと、自嘲。]
まあ、そうだろうけどなあ。
俺の事を怖がってただろ、あんた。
[荷物をかたすのを手伝うと告げた時も、
店から売り物を持って来てやると告げた時も。]
怖い顔のおっさんのことなんて、忘れちまいな。
[強面だという自覚くらいはある、流石に。]
俺は、
[あんたにも幸せになって欲しいと思ってるんだぜ?]
[そう言いかけた所で――口を閉ざす。
ならば何故目の前から消えてゆくのかと、
男を『仲間』だと知った時の彼女の聲は、
ひどく嬉しそうで、愉しげだったから。
面と向かって告げるのは、あまりに無責任で、
軽い言葉に思えてしまった。]
人間と共に居すぎたせいだよ、きっと。
ルサールカ。
[自嘲する様子を耳で触れば、そう教えてやり。]
それは……あなたが、仲間だって知らなかったし。
外からきた人間が、怖かったもの。
なんだか、あの村で過ごす私が人間じゃないって知ってるみたいで。
[上手く溶け込んでいるのに、どこか探るような目を向けられている。
地顔なのかもしれないけど、そう思ったことが何度かあったから。]
…そうね。
でも、忘れられるかしら?
[また数百年立てば忘れてしまうのだろうけど、
しばらくはずっと忘れることが出来ないだろう。]
[コテージから出るミハイルを見送った後、
ぽつりと告げる]
あなたが羨ましいわ。
私には、もう、誰もいないから。
[羨ましい。
そして妬ましい。
私は独りになってしまうのに。
それでも恨みきれないのは、独りに慣れてるのか。
諦めているのか。
わからないことばかり。]
誰も居ない?
……そうかな、
あんたの屋台は俺が行った時にゃ、
きちんと商売出来るようになってたじゃねえか
俺の前に、荷物を持ってった奴が居ンだろうよ。
[誰も居ない、そう落胆する彼女へと届ける聲は、
ひどく優しいもので。]
愛してその人を得ることは最上である。
愛してその人を失うことはその次によい。
[クレストに勧められた本。
読まずに突き返したが、
偶々落ちた本の頁に書かれていた一文を、口ずさみ。]
死ぬことよりも、生きることを考えろ。
[飲み込まれた言葉がなんなのか。
そんな事は知らないけれど。
死ぬ時くらい、希望のある事を言ったって構わんだろう?]
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