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――"49"か。
邪魔にはならん、座るといい。
[目元へ包帯を巻いた男が姿を見せると、蛇遣いは
"49"――彼を、マティアスをそう呼ばわった。
確かに、彼の両耳へ揺れるプレートにはその数字が
刻まれている。その由来は未だ語られないけれど。]
まだ、何もしてはいないのだ。
まだ、村のために、気の毒なドロテアのために
ここにいる誰も、何も出来てはいない。
なに、肝心なところとやらが
きっとまだ来ていないだけさ。
[ずっと洟を啜って、ラウリへ応じる。
例えばビャルネの言葉通り、村の男衆が銃も使わずに
トナカイを襲った狼を射殺すところを蛇遣いは以前に
実際目にし知っていた。頼りには、しているのだ。]
むしろあたしこそ、何も出来やしない。
…蛇を操れるのだから狼も操れるのだろうと
言われてしまうかもしれんと予想する程度だ。
…
報いるのも、「必要なこと」だ。
[薮睨みめく視線は、男の包帯の奥へは届かない。
届くとしたら、苦い砂を噛むような間だけだろう。
不謹慎めくラウリへ、苦言を呈することはしない。
ただ火の中へ、おもむろに白樺の小枝を差し込む。
端を摘んだまま炙ると、やがて…ぱちんと弾ける。]
[溶けた熱い樹脂が、角度違わず――ラウリの頬へ
跳んでいったのは果たして偶然だっただろうか?]
…
[素知らぬ態の蛇遣いは、
儀に、犠牲に――納得していないとこの場で言う
ビャルネの呟きへ同調する態で重々しく*頷いた*]
/*
我ながら、役職希望迷いすぎなのです。
正直、狂信者以外ならなんでもばっちこい。
今回の村は、狂信者自分でやるより愛でていたいのです。
誰か希望してて下さい…!!そして人数集まるといいな。
[熱く灼けた樹脂をラウリの頬へ飛ばしたあとは、
しばらく皆の紡ぐ会話と、挟まれる沈黙とを聴く。
僅かに届いた細いこえ――
確かにドロテアが笑みを含んで零したそれに瞬き、]
… ドロテア?
[名を呼んで顔を上げるも、供犠とされた彼女の
手元を見るとそれ以上を問えずにくちびるを結ぶ。
その後に車椅子で場を訪れた青年レイヨが、彼女の
身代わりについて言及した折も…蛇使いの面持ちは
変わらなかった。それ以上、苦くならなかったから]
赤マントも、戻ったか。さっきはどうもね。
[自身のところへも知らせを運んできた使者へと
くだけた声を向けたのは、その苦さを潜めてから。
蛇遣いは、暖を取ることに集中したいかのように
毛皮を被ったままじっと火の前から動かない――]
全員ではないのか。あとは誰が…
――と。
ウルスラ先生だったか。これはまた…
[折に姿を見せたウルスラの姿に、眉を下げた。]
何しろ、数が多い。
代わる代わる吠えるなら、疲れもなかろうよ。
[――命ぜられるままに。死ぬまで。
ウルスラの言は、胸裡に湧きかけた思考と混ざる。
改めて、先に言葉を発したカウコを焔越しに見て]
…あたしは、逆を思った。
なぜドロテアが供犠にと選ばれた?
若い娘なら、少ないが他にいなくもない。
長老の孫だから、なんて理由じゃ残酷過ぎる…
味が変わるわけでもなかろうに。
[先に来ていた蛇遣いも、書士も既に尋ねたこと。
長老から返答は得られず…今に至る苛立ちが滲んだ]
…すまない、やつあたりだ。
狼が現れるまで、トナカイの様子はどうだった?
先生。
[獣医たるウルスラに尋ねるのは、彼女が日頃診る
トナカイたちの、かの闇夜の様子。首を傾げて――]
この地があまり長くないあたしでも、
トナカイたちの図抜けた臆病さは知っている。
人懐こいのは、
荷曳用に去勢された雄トナカイだけだ。
世話をしてくれる人間にだって、気を許さない。
[餌の干し苔を食べさせようと、常より一歩だけ
余計に近づいたときの――瞬時に血走った眼。
垣間見たトナカイの本能を、思い起こして言う。]
囲まれるまでトナカイたちが
騒ぎ出さなかったのも、普通じゃないな…
[小洒落た帽子に触れていたラウリの指先をちらと
思い返すように見ていると、そこへ新たにヘイノが
体を割り入れてくる。むっとした面持ちで見上げて、
動かずにいるが体格差で押し負け渋々場をずれる。]
…いちばん暖かそうに着込んでおいて、
何がハイハイごめんなさいだ、きさま。
獣臭いは構わんが、
その甘い臭いはきらいだといつも言っているだろ。
[遠慮無く文句を垂れて、大蛇を首へかけ直した。]
そうだな。数百キロ四方から集めてこないと、
あんな群れにはならないんじゃないか?
[厭わぬ態でこちらを見るウルスラと言葉を交わす。
相棒たる大蛇が、丸呑みしたクズリを喉へと
詰まらせて難儀しているのを救ってもらってから
蛇遣いはウルスラを先生と呼び敬意を払っている。]
狼使い、か。
そんな奴が、どうしてこの村に紛れていたのだか…
否。なぜこの村を狙わせているのか。
ああ、わからないことばかりだな。
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