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[海の歌が聴こえる。
賑やかなあらゆるものは私を避けて過ぎ行き
残されたものは静かで平らな毎日。
此処にあるのは
遠くの波音と車椅子が軋む音だけ。]
896号室 ひとりきりの部屋
[真っ白な部屋の窓際。
膝に乗せた青い表紙の日記帳を撫でて。
その、海とも空とも似ていない
つまらない青色を指の先で愛しんで。
私は、そっと世界に幕を下ろす。
そして閉じた瞼の内側に砂浜を描き。
空想の中へと、駈け出した。]
[思い描いた空想の正体はきっと、
本当なら私が歩むはずだった未来の画。
瞼を持ち上げて、世界をみつめて。
冬の砂浜で犬と一緒に走る午後を、
日記帳に書き留める。
嘘と夢が綴られた日記帳はこれで三冊目。]
…明日の散歩は何処へ行こうか。
キミは何処へ行きたい?
[冷たい硝子窓に映る私に問いかける。
アン・シャーリーに倣ったひとり遊び。
私の<友達>には、名前がまだ無いけれど。]
― 夜中 ―
[がちゃん がちゃがちゃっ と大きな音が響く]
やれやれ、お隣さんにもまいったものだね
[介護病棟の自室のベッドの上で呟いた。
隣の老人は夜中に廊下に出ては、部屋に戻ろうとして間違えて隣の部屋をがちゃがちゃやるのだ。今日もまた目が覚めてしまった]
うーん
[眠れないながらもごろりと寝返りを打った。ここに入ったばかりのときは丁寧に、お隣の部屋ですよ、とドアを開けて対応したりもしたが、今はそれもしない]
…角部屋なだけ、良かったね
[この病院は、角部屋の窓が大きい。
もう一度、よいしょと寝返りをうって、窓のほうを見た。
隣の老人は、扉が空かないので諦めたのだろうか。
毎度の音に気づいた職員が連れて行ったのだろうか。
静まり返った病院に、わずかな潮騒が響いている気がする。
窓の外遠くに光る月が見えた**]
まだ退院できないんですか
[簡素な入院着を身に纏った男は、努めて抑えた声でもう一度問うた。答えは何度聞いても同じで、無駄を嫌う男は、医師の促すまま席を立ち]
……今後も、よろしくおねがいします
[ゆっくりと部屋を出て行った。
窓の外、はるか遠く水平線から空へ伸びる
白
途切れた青に背を向け、病室へと足を向ける]
[珈琲を啜りながら、カルテを眺める若者が一人。
次の予定はなんだったか、時計を見る。]
えーっと…―――
[首を捻り、考える。
手術は、今日はなかったはずだし。
会議なんてはいってたろうか。
どうも最近、記憶が曖昧だ。]
ま、何かあれば呼ばれるさ
[元々大雑把な性格をしている若者。
特に気にする事もなく、カルテに再び目を落とした。]
896号室 ある日の午後
[長らく役目を果たしていない両足を、
真っ白で清潔なシーツに、置く。
グラウンドを駆けた筋肉は死んで
鳥の足みたいになってしまった、私の足。
どうせなら腕も羽根になれば良いのに、
感覚の無い腿を擦る私の手の平からは
しっかり五本の指が生えている。]
…ねえ、アレをしてよ。
[病室を整えてくれる看護師の指を握り。
足の先の10枚の爪に
色を乗せて欲しいとお願いする。
今日は、赤が良い。林檎の赤。]
…でも、たぶんもう私は駄目だよ。
歩いて行きたい場所が無いもん。
[熟れた林檎色のペディキュアが乾くまで、
リハビリをしようと促す看護師と
遠くの潮騒を聴きながら話をする。
消極的な意見はお気に召さないようで
彼女の表情が曇ってしまう。]
…少しだけね。
その後で、屋上へ連れて行ってよ。
[しばらく、そうした話が続き。
根負けして、私は車椅子に乗った。
せっかくの赤い爪先を隠すのは
勿体無いから。
素足のままで。*]
[少女の心臓には爆弾がついている。
勿論それは比喩なのだけど、少女はその言葉を信じていた。
その爆弾を取り除くには、手術をしなければいけないらしい。
成功率は<54>%だと大人は言っていたけれど、少女にとってはそんなもの、実感が湧かないただの数字に過ぎなかった]
[夢を見ていた。
暗い中に、ぽっかりと明るい場所があり、その空間で老人が生い茂る草木に水をあげていた。
ああ、これもよくある夢だ。でも、いつも同じことをしてしまう]
おじいさん、おじいさん
もう私も十分生きましたよ
そろそろお迎えにきてくださいな
[老人に声をかけながらゆっくり明るい空間へ向かう。
老人が水遣りの手をとめて、こちらを見た。
そして首を振った]
― 朝 ―
[目を覚ますと、部屋に明るい光が差し込んでいた。この部屋の、朝日の当たりがとてもよいのが好きだ]
…よっこいしょ
[朝ごはんを食べに食堂へ行かないと。と洗面台に向かって身支度を始める]
豪勢な部屋だよ
トイレもあるし、鍵もかかるしね
わたしをこんなところに入れるなんて、もったいないさ
[家にいたってよかったのに。
ぱしゃぱしゃ顔を洗いながら呟いた]
さてと…
[朝食を終えるとふらりと病院棟へと足を向けた。
ここの食事は成年から見れば粗食も粗食だが、正直老いた自分にはそのそっけなさがちょうどいいくらいだった]
自分で作らなくていいなんて、豪勢だねぇ
[また呟きながらゆっくり渡り廊下を歩いていく。
昼間は介護棟でもレクリエーション的なことをやっているのだが、自分は散歩によるリハビリと称して病院棟や、庭に出るのが好きだった。
というか、レクリエーションに出るのが嫌だった]
[ここに来たばかりの頃、レクリエーションによるリハビリを職員に勧められ、目を留めたのが歌のレクリエーションだった。
これでもずっと若い頃には、満州のカフェで歌を歌ったこともあるのだ。あの頃歌ったような曲は演奏するのだろうか。
どんな人がいるのかというのもわくわくして、少し身なりを整えて会場に行き、椅子に座って開始を待った。他にも10人近くの老人が職員に連れられて集まっていた。
レクリエーションの時間になると、若い男の職員が2人やって来た。1人はギターを持っている。
『じゃーレクリエーションやりまーす。分かる人は歌ってくださーい』
やる気のない声に隣の職員がくすくす笑った。
ほかの集まった老人は、椅子に座ってぼんやりと2人を見ていた。
ギターを持った職員はその後、なにかよくわからないテンポの早い曲を弾いた。合いの手を入れるにしても早すぎてどうしようもない。
『あなにお前それ弾けんの?じゃああれ弾けねぇ?あのCMのさあ』
『お弾ける弾ける、ていうかお前もあれ好きなんだー』
[雑談しながら曲を弾きつづける2人を自分もぼうっと見ているだけだった]
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