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>>9
君は追いかけなくていいのかね?
[窓の外を見やり、懐に手をやるが、別に武器まで準備できるわけが無く、指先に触れるのは厚い脂肪層のみ]
あちらのほうだよ。
[列車の後部を示した後]
ではわしは、部屋に戻らせてもらう。失礼。
[ウルスラに背中を向けて一号車の方へ歩き出す]
[1等車、二両目までは来られた。が、ここは衛兵が居る。そのまま行けそうもないなあ。とつぶやくと。]
ん、でもまあ行かないとねー。
[ポケットからさいころを取り出し、にこりと笑う。]
ねぇねぇそこのお兄さん方!
ちょっとこれ見てくれない?
[先ほどポケットから取り出したサイコロを衛兵の手の上に乗せる。と、それはひとりでにくるくると回りだし]
え?風の所為だって?
そんなことないってー。部屋に戻ってみてみなよ。部屋のなかでも回ってるから。
[普通ならばそんな話には乗りそうもないものだが、なぜか衛兵2人は頷いて部屋の中へ入っていってしまった。]
ごゆっくりー。
[にっこり笑って手をひらひらさせてすばやく通りぬける。自分が通り抜ける頃にはサイコロははじけて消えるだろう。衛兵の中の自分に会ったという記憶と共に。]
(…否定、しなかったわね。)
[仕掛ける気満々だったけれど、
うっかり武器を忘れていることに気づいたのだった。]
(自前の武器は通用しない相手、よね…。)
[さて、どうしたものか。
とりあえず食堂車を抜け、二等客車。
自室に戻ってアレコレした後、
向かった先は小さな紳士の部屋*]
─→一号車・先頭車両─
[一号車に入ると、警備のものたちがわらわらと寄ってくるが、鷹揚に片手を上げる]
いやぁ、惰眠って、ほんっとに良いもんですねぇ〜。
[いつもの調子でそう答えた。
曰く、気が付いたら三等車最後尾の貨物室で寝ていた、というものである]
『閣下!』『閣下!』『閣下が無事で』『ハラショー!』
黙りなさい。
─ 一号車・ミズノフスキーの部屋─
荒らされているな。
わしの居ない間に誰が来たのか分かっているのかね──いない?
わしの部下はいつから無能に成り下がったのかな。
わしが惰眠をむさぼっているうちに、徹底的に調べたまえ!
それから、ディナーを持って来るように。
眠っている間、何も食べていないからおなかがすいてね。
[ソファにふんぞり返りつつ葉巻をくゆらせ、うとうと**]
─ミズノフスキー閣下の部屋─
[ボルシチを食べながら、眉間にシワを寄せ、釈然としない顔]
(どこかでバカにされているような気がする……?)
うぉっほん!
[考えを振り払うと、ミズノフスキー閣下の部下に相応しく、通りいっぺんの調査をしている警備員に咳ばらいをした]
ええいまだ見つからぬのか!
─ミズノフスキー閣下の部屋─
まだ見つからんのか!
私自らが探してくれる。武器を持て!
[手渡されたのは黒鞘の軍刀]
ええい刀ではなく、銃だ!
[そうして一丁の小銃を渡される。
肩から小銃を下げ、ものものしいいでたちになると、部屋から出て、前方へ進んで行く。
車掌室などを通り抜け、たどり付いたのは運転室]
─運転席─
ここはわし一人で入る。
[兵士たちを押し止め、運転席に入って行く
──10分後。なかで大きな物音]
貴様なにやつ? なにをするやめろー!
[自作自演の後、扉を開けようとしても開かず]
ミズノフスキー 一生の不覚!
[中から若い男の声がする]
『ミズノフスキー閣下とこの列車は、我々モスクワの白い鷹が乗っ取った。
列車内に知らせろ。
"ロマネス家の財宝"と交換だ。
持っている奴は早く名乗り出ないと、仲間の用意した爆弾が爆発する。
運転席は押さえたから、列車が暴走して止まらないかもしれないぞ!
命が惜しければ早く持って来い!
ミ……ミズノフスキーの命が惜しくば探してくるんだな!』
─その頃の運転席・10分前─
[運転士のおじさんと、ミズノフスキー閣下が、ウンコ座りで紙巻きタバコをくゆらしている]
でね。わし取られちゃったのよ。護衛対象のお宝。もう面目丸つぶれ。部下は使えないしさ〜
[愚痴は続き、運転士が涙を浮かべ始めた頃]
だからさ、ひと芝居打とうと思うわけ。
協力してくれない? ぜぇぇったい迷惑掛けないから!
[運転士と固くハグ]
いやぁ、人情って、ほんっとに良いもんですねぇ〜。
[そうして、入口にレンチを引っかけ、自作自演が始まる。
入口はふさいだけど、窓はあるし、線路下からも天井にもハッチはあるし、いろいろ穴だらけではある**]
―少し前、閣下のコンパートメント―
[ごてごてとゴシック風の格子の装飾がついた天井は、幸いにして手がかりが多く、「閣下」が居眠りを始めるまで持ち堪えることができた。]
(ふぅ〜、こりゃ明後日には節々が痛むぞ…。)
[などと考えるが、捕縛されるよりは遥かにましだ。
かくり、と肉の厚い顎が落ちるのを確認して、とす、と猫のように着地する。
と、ふと顔を上げた、ちょうど目線の高さに「閣下」の顔がある。
いつか新聞の写真で見た、そして出立の時にちらりと見ただけの顔であるが、長年絵画を扱って来た目が告げる。]
―こりゃ、贋作だ。―
ブルータス、お前もか。
一体何人、競合相手が乗り込んでいるかわかりやしない。
さてどうする、この男、偽者とあれば起こして話を聞いてみたい気もするが…。
とはいえ、「閣下」だものな。騒がれたら、ちと面倒か。
[と声には出さず呟いて、静かにコンパートメントを後にする。]
[さすがに痕跡を消す余裕は無かったが―、短時間のうちに捜索はあらかた終わっていた。
ここに「財宝」は無い。―少なくとも画商の目指す物は無い。]
(わしの目指す物。)
[それを想う時、画商の脳裏には、一人の少女が像を結ぶ。]
―回想―
[落ち着いた色彩の、豪勢な、それでいて趣味の良い部屋の中。
一人の少女がイーゼルに架けられたキャンバスを前に佇んでいる。
そこに架かるのは、レンブラント風の、光線を駆使した柔らかな少女の肖像。]
どうした?気に入らないのかい?
[問い掛けに、彼女は振り向く。
それは、キャンバスの中にあるのと同じ顔。
ブロンドの、真っ直ぐな髪が縁取るその顔は、愛らしく、はにかんだ笑みを湛えているが、どこか寂しげだ。]
「いいえ、とても綺麗。
でも、ちょっと綺麗すぎて、わたくしじゃないみたい。
ねえ、次はあなたご自身のタッチで描いてみて下さいな。
―おにいさま。」
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