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[蒸気自動車に揺られながらも、画商は少し思案を続けている。]
(絵は手にした。逃走手段もある。
もうちょっとの寄り道は許されるだろうて。)
[と、後部座席のアルマに向き直り]
なあ、ちょっと、すまんが忘れ物を取りに行っても良いだろうかな?
[返事は待たず、ドライバーに合図を出す。
向かうは…。そう再びの「女帝」との逢瀬。]
[キキキーーーッッと、タイヤを軋ませ、蒸気自動車は向きを変える。
線路を横切り、列車のホームとは反対側を、砂利を弾きつつ前へと走る。
ほとんどの乗客は、イルクーツクの街を見物しに行っているのか―バイカル湖までの辻馬車も用意されていた―、車窓からこちらを見やる者は僅か。]
おーーーい!マドモアゼル・アイノーーー!!
ここで捕まると、シベリアで強制労働だぞーー!!
この車に乗りなさい!
[蒸気機関の、運転室に向かって叫ぶ。]
[方向転換をする際に、アルマは車からホームへと飛び移っていた。
何かに気づいて、急ぎ列車の前方へと駆けてゆくのが見える。]
(もし捕縛されたら―。
あの小さな体で、シベリアの冬を過ごすのはとても無理であろう。
呼び掛けてはみたが…、果たして聞こえただろうか?
いや、そもそもあの娘は無事なのか?!)
[自分が逃げ出す少し前、縛られたマダムに聞きたい事がある、と残ったようだが。
その後何事もなかったろうか。
マダムの仲間に、衛兵に…、他にも危険な輩が列車に乗り合わせていた。
そこまで思ったところで、ふと気づけば運転席から、複数の人物が喚く声がする。
不安と焦燥が一気に押し寄せた。]
[やがて、身を乗り出せば運転室の内部が見渡せる距離となった。
差し当たり、少女の無事な姿に安堵するが、同時に今や自由の身となったマダムに、いつしか舞い戻って来た小さな指揮者、そして一体何がどうなったのやら、「ギリシア彫像」の姿さえ見えてくる。]
はて、あの―「マドモアゼル」…、いつからか姿を見なかったようだが…。
おお、何だ何だ?もしや全員何か武器を携えておるのか?
[焦りながらも、どこか楽しげな呟き。]
(無事、とは言っても、きっちりマダムに捕まっておるな…。)
[最悪自分が奪還に向かうべきかと悩む所に、マティアスが動いた。
怯んだ様子のウルスラの腕を、するり、と抜け出すアイノが見える。]
よし!
[叫ぶと、再び大きく身を乗り出す。
ドライバーが―、手下が制止するのも聞かず―…]
[運転室の窓に、少女の顔。
その瞳は一瞬虚ろに空を映したが、直後再び哀しみと―、そして決意の光とを宿す。
見事な身のこなしで少女はたんっ!と窓枠に足を掛けると、大きく開いた画商の腕の中に飛び込んで来た。]
―一月ほど経って・ヴァルテリ、エンディング―
[南仏、プロヴァンス。
初夏の日差しが、青々と若葉を繁らす葡萄畑に差し掛かっている。
その葡萄畑の向こう側。
ヴァール川の川岸に佇む小さなシャトーも、きらきらと水面を写し輝いている。
その光景は、およそ30年ほど前のパリを知る者なら、ふと既視感に囚われることだろう。
つまりそのシャトーは、かつてセーヌ川沿いに建っていた、王家の末裔が暮らしていた物と瓜二つに作られているのだ。
そしてその一室。
かつて一人の少女が、キャンバスを覗き込み、佇んでいたのとまるでそっくりな部屋で。
一人の男が、一枚の絵をためつすがめつ検分している。]
[その絵に描かれているのは、前代のロシア皇帝、「アレクサンドルV世」の肖像。
しかし皇帝の左目部分は、無残にも黒く穴が穿たれ、絵を手にしている人物の瞳がそのままそこから覗く。
―つまり、傍目に皇帝が、ぎょろりと片目を動かす風にも見えるのだ。]
ふむ。
マダムの銃弾が包みに当った時は肝を冷やしたものだったが…。
この絵なら、まあ特に修復の必要は無いか。
[誰に話すともなく呟くその人物は、薄い色の真っ直ぐな金髪に、同じ色の口髭を生やし、青い目をした初老の紳士。
その傍らの卓には、もしゃもしゃとした髭のような物体と、同じく白い縮れ毛のウィッグ。
薬品を満たしたガラス瓶には、特製の茶色い樹脂―今で言うカラーコンタクトレンズが浮かんでいる。
そして彼の足元には、ずらりと十余枚の、ダ・ヴィンチからマネ、モネ、ゴッホ…いずれ劣らぬ名画が並ぶ。
しかし―]
あれほどの大立ち回りを演じてしまった以上、「ヴァルテリ・シャルブネ」には消えてもらわなくてはならんだろう。
しかも大騒ぎの挙句、結局、おまえはエカテリーナ号には乗っていなかったのだな。
[寂しげに"La Maestro"と呼ばれる男は呟く。
そして繊細な細工部分に赤い絵の具が入り込んでしまっている懐中時計を取り出し、かちりと開く。
そこに現れたのは、愛らしい真っ直ぐな髪の少女の、少しぼやけた写真。
少女の写真に、そのまま哀しげな視線を移す。
―がその時、写真の上にかかるガラスが、光にきらりと反射して、一瞬少女が微笑んだ風に見えた。]
おお?
[それを見て、男は少し表情を変える。
直後、得心した、という風にふと頬を弛ませ、彼は懐中時計に語りかける。]
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