情報 プロローグ 1日目 2日目 3日目 4日目 5日目 エピローグ 終了
・・・あにさま?
・・・・ヌイちゃん?
・・・・・。
[くらり、と。
またあの圧力が脳を打ち据えて、ちかは、スイの手のひらの下でくず折れた。
握り締めた拳の中に、飴玉を*包み込んだまま*]
― 夢 ―
[霜の声を聞くころになると、”ちか”はひたすら小さく小さく縮こまった。小さくなっていれば”さむさ”から見つからない、そう思って。薄い布団を頭から被り、ただただ、寒さと、暗闇と、孤独に耐えた]
「ちか、ほら、持ってきてやったよ」
「わあ、ゆうちゃん、いつもありがとう。庄屋さまはほんとうにおやさしいの。ありがとう」
[春、夏。”ちか”は野で食を得る。秋は山で。そして落穂を拾い、じっと冬を遣り過ごす。しかし、腹を満たすには、足りない]
「・・・まだ死なれるわけにはいかないもの・・・」
[”ゆう”は、聞こえないように口の中だけでそう呟く。”ちか”を感情の篭らぬ瞳で見据え、幾許かの食料を置くと、すぐに粗末な庵を後にした]
― 夢・*了* ―
― 夢 ―
[”ちか”は”ゆう”が手にしているものを見て、興味津々の態で尋ねた]
「ゆうちゃん、それはなぁに?」
「これは庭訓往来よ。ちかには必要ないものよ」
「えっ?て、てい・・・?」
[わけのわからないという表情の”ちか”に、”ゆう”は薄く意地の悪い笑みを口の端に貼り付けて言った。『よ』の文字を指差しながら]
「少しだけ教えてあげるわ。これは『ま』と読むのよ」
「わぁ、ゆうちゃんすごい。もじが読めるのね」
[”ちか”は”ゆう”がくすくすと笑っているのにも気づかないまま、教えられたとおりに地面を指でなぞって文字を書き、読みを復唱する]
[気がつくと、横になっていた。緩く首を巡らす]
「わたしのへや」だ・・・。
誰か運んでくれたのかな?
わたし、みんなにめいわくかけてばかりだ・・・。
[自分の部屋なのに、なぜだろう?この部屋で落ち着いた気分になったことがないような気がした]
ここはわたしひとりには広すぎるよ。
居間に行こう。
みんな、きっといる・・・。
[ふと触れると、目の端がカサカサしてた。
きっと、寝ている間に流れた涙が、乾いたからなのだろう]
[ゴシゴシと服の袖で目の辺りを拭ってから、居間へと降りていった。戸を開けると、いきなり飛び込んできたのは大きな木]
お部屋の中に、木が生えてる・・・。
どうして?
・・・あ・・・。
[しばし呆然と見ていたが、居間に誰もいないことに気づいて途端に不安になった。
恐る恐る名前を順に呼んでいって、人の姿を探す]
ギンちゃん・・・。
[やっとギンの姿を見つけると、嬉しそうに駆け寄り、そっと抱き上げてその温もりを*受け取っている*]
[ギンを抱いて陽だまりの中で目を瞑っていたら、ツキハナに声を掛けられびくりとした。
その拍子にギンは腕の中からするりと抜け出ていってしまった]
えっと、くりす・・・?
[意味が分からなかった。
しかしご馳走と聞くと、お祭りか何かだと理解]
ほしいもの・・・ごちそう・・・。
えっと、くさだんご!
[ちかは、思いつく限りのご馳走の名前を口にした]
うん。
ちいあにさま、わたしも作る!
[スイの後ろを付いていって、台所で手伝いを始める。
しかしこの家の中には、ちかの知らないものや分からないものがいっぱいある。ありすぎる。
ちかは結局オーブンの前に陣取り、丸鶏の焼き上がりを知らせる*係りをしている*。(見てるだけー)]
はい、ちいあにさま。
[元気よく返事をして、オーブンの中を凝視する。時間経過に比べ見た目の変化に乏しい肉の塊を、頬杖を付いて楽しそうに]
・・・ととさま・・・・。
[しかしユウキの呟きを微かに耳にして、瞬間表情が曇る。
頬を覆うようにして両こめかみに指先を当て、何かに耐えるように小さく唇を噛んだ]
えっ、あっ?
う、うん・・・。
[ツキハナの声にはっと我に返って、歯切れの悪い返事をする。ツキハナの手元の団子とオーブンの中とを交互に見て]
・・・・・・。
[同時に複数の作業ができない要領の悪さ全開]
[ささっとチキンを飾っているスイや、同じサイズの団子を次々に作り出すツキハナの手元を見て、惚れ惚れとした表情になって]
すごいなぁ、まるでおまじないみたい。
・・・かかさま、どうして六つなの?
[ちかも真似をして団子を少しちぎって、丸めてみる。どうしてもうまく丸くならず、いびつに歪んでしまう。
短冊に描いた丸みたいな団子ができた]
[ツキハナの答えに首をかしげながらも、アンの言葉に頷いて]
かかさま、ヌイちゃんのお嫁さんの分だったのね。
[勝手に納得して、鏡を覗き込んでリボンを映して見ている]
きれいな髪紐・・・。
行かないで・・・行かないで・・・・。
みんなでここで暮らそうよ・・・。
わたし、悪いことをしたの?
だからみんな、行ってしまうの?
[半分錯乱状態で、ぶつぶつと呟いている]
[ひとしきり泣いた後、スイに尋ねる]
ちいあにさまは、行ってしまったらもうここへは戻ってこないの?
みんなも、戻ってこないの?
どうして?
[スイのきっぱりとした言葉に、ちかはぱっと表情を明るくする]
ほんとうに?ほんとうなのね!
ちいあにさま、戻ってくるのね。
良かった・・・。
わたし、待ってるね。
ここでずーっと、みんなが戻ってくるのを待ってる。
[目の端にまだ涙を残したまま、にっこりと笑った]
[短冊を見て、再びこの家に全員が戻ってきたときのことを想像して、ちかは微笑んだ]
ちいあにさま、迷惑をかけてごめんなさい。
戻りましょう。
ごちそうが冷えてしまう。
あったかいうちに、食べましょう。
[ちかはスイの手をとって、居間へと]
[立ち止まり、スイを振り返る。喉に小骨が引っかかったような言葉に]
・・・・みんな?
[その響きには、なぜかスイが含まれていないような気がして、眉を顰めた]
家族が集まるためには、おうちがひつようなの・・・。
過去なんか・・・過去なんか、忘れちゃえばいいの。
わからない、わからないよぅ・・・。
[しかし、その響きは「わかりたくない」の意味を暗に含んでいる]
ちいあにさまぁ、ごめんなさい。
ごめんなさい。
ちいあにさまを笑顔で見送らなくちゃならないのに・・・。
[ちかは、また泣いていた。どこにそんなに涙を溜めていたのかわからない。枯れそうになるほど泣いても、まだ涙が溢れる]
情報 プロローグ 1日目 2日目 3日目 4日目 5日目 エピローグ 終了