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何って…ぅん…。
あの、ね……
[どう切り出したらいいのか、言葉を選べば、後を絶たずに浮かんでくる幼少の記憶。]
前に住んでたところ、とか、その…裏山の、こととか……。
ほら、一緒によく…
[口にしかけて戸惑うのは、僅かに残る迷いからか、それとも緊張からか。
差し出されたハンカチに気づけば、素直に受け取って、きゅっと握り締めた。]
…!
[口にしかけた言葉を、代弁された様で、少し驚くようにその表情を見つめ。]
覚えてたんだ…。
[そう呟いた口元は微かに緩んだだろうか。
しかし、続いた言葉に眉を下げて]
……ぁ、ぅん。
そう、なの。だから…きっと…
私、嫌いになられちゃったんだ、と思って…。それであまり裏山に行けなくなって。
[後になって聞いた話で、理由はなんとなく知ったのだけれど。
今は、当時の気持ちを赤裸々に告げた。
怖くて、足を向けられなかった、そんな臆病な自分を悔いたのは、引っ越しが決まってからの事だったっけ。]
此処に来て、色々な事があったおかげ、かも。
そうじゃなかったら… きっと私、向き合うの…怖いままだったと思う。
[彼の横に腰をおろしたまま、見上げればそこには花房の無い枝。
この空間に迷い込んで以来、ずっと聞こえていた声の主に、ふわり微笑んで]
あの、ね。
じゃあ… あの時の事、覚えてる?
[発作が治まってきた様子に少し安堵すれば、そっと立ち上がる。
一歩前へと進んで、小さな背を向けたまま問いかけた。]
えっとね。
華お姉ちゃん、覚えてる?
三人で…裏山に行った時…。
[口にしながら、徐々に鮮明になっていく記憶に目を閉じて]
私、あの頃から…鈍かったから。
二人に置いていかれるんじゃないかって、ちょっと寂しくなってね。
走ったら、見事に転んじゃった。
[つい先程の事と重なるようで、一人苦笑がこみあげる。]
寂しかったのと。
痛かったのと。
それに、藤を傷つけちゃった気がして…。
[倒れた横に落ちていた花房は、別段自分がつまづいた事と関係無い物だったのかもしれないけれど]
だから、すごい勢いで泣いちゃって、さ。
[ちらりと視線だけを向ける。
彼はどんな表情で聞いているのだろう。]
進矢くんのせいじゃないよっ!
[思わず振り返って、心なしか言葉が強くなったのは、
むしろ、苦しかったであろう想いに気づく事すら出来ず…
勘違いから、現状を作ってしまった自分に責を感じて。]
私に…。もう少し勇気が、あったら……。
きっと、あの頃、ちゃんとお話できてたら…。
[過去の事とはいえ、心労となるような事を、自分のせいで抱えさせてしまった気がして
堪え切れず、頬に一筋。
其れを指先で払うように拭い、両手をきゅっと握り締めながら]
…あの時。私… 病気の事とか、ちゃんと理解出来て無くて…。ごめんね。
それから、もう一つ。気付けなかった事……。
[時折、唇を隠すようにして、込み上げるものに耐え]
今なら、判るんだ。
もう誤魔化したく、ないから…。
心配かけたくないから。
聞いて、くれる?
[どこか恐る恐るの問いかけは、目を伏せて呟くように。]
[何時もそう、苦しいのは彼の方なのに、自分が泣いて、謝って。
きっと、目の前の優しい人は、その様子を見れば気にして、余計に辛くさせてしまう。
だから、我慢しなくちゃ。
そう言い聞かせて、頷くだけ。]
小さな花瓶、お母さんにねだって、お部屋に飾って眺めてたんだ。
あの頃は、その嬉しさが…何なのかよくわからなくて。
でも、今なら判る。
[そう口にした時、何処かから響いたのは柱時計の音?
空が金と銀に輝いて、全てを照らす中、彼にふわり微笑んで]
―― 私 あの日
初恋 しました ――
[連絡先の話に至れば、はっとしたように]
あ!そう、だね。
此処に居たの… どれ位の時間、なんだろう。
なんだか、ずっと此処にいたような気が、する。
[藤の根元に置いた鞄から、手帳を取り出し、ペンを走らせる。
少し手は震えたけれど、全てを書き終えればそっと差し出して]
うん。約束!
大丈夫、信じてるもん。
それに、ほら、この樹も…信じるって!
[そう言って指差したのは、八重藤の枝の上、小さな小さな若緑]
[不可思議な事に振り回されて、大変な一日だったけれど…]
わ…。進矢くん、すごいカメラ。
すごい記念に、なっちゃう、ね。
[幻想的な薄紫を見回して、くすと笑った。
彼の呼びかけに皆集まっただろうか。
もし撮影されることになったなら、しっかりと彼の隣で笑顔を浮かべたことだろう**]
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