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いまに無いなら、むかしに在る。
[小さな声で呟きながら書斎に向かう。
しかし、書斎のあった場所はがらんとした客間であり、いくつかの部屋をあけて、本が雑然と積まれている書斎にたどり着いた]
和綴じの本も入り混じる書棚を捜し、たどり着くのは、昔だというのに古ぼけた手書きの原稿用紙]
ここで「むかしのあたし」がこれを持っていくと、「いまのあたし」の手に届かなくなる……?
[右端をこよりで結われた原稿のタイトルは『太雪』である]
ガモンさん……ここは、むかしのここは、夢なのかな。
[原稿をそっと棚の上に戻し、ガモンの頬に指を伸ばす]
痛い?
[きゅっと頬をつねろうと**]
[「今」とは違う書斎。オトハが原稿を手に思案している様子]
『太雪』それっすか。みつかって良かっ……
[女性の細い指が頬に触れれば、口を半開きにしたまま硬直する。が、次の瞬間]
あでっ!?
そ、そりゃ痛いですよ!
[頬を押さえて抗議するが、オトハの意図に気づくと]
あー、夢じゃない、みたいっすね。少なくとも、俺にとっては。
……試してみます?
[ごく軽く、オトハの頬をつまみ返そうとした**]
これが現実なら、人は過去には戻れない。
つまり、ここは、過去を模した家? え? 原稿は、ニセモノ?
[ぶつぶつと呟いていたが、ふっと肩の力を抜いて笑う]
いいの。
この世界なんて空飛ぶスパゲッティ・モンスターが大酒を飲んだ後に作ったものなんだから。
ちょっとくらいおかしくたって構わないのよ。
[何やら諦めたようで、原稿をそっと両手で抱えると]
せっかくだから探検しない?**
[ 庭園で、弁護士と別れた]
なぜ、は気になりますが男女の中に口出しするほど野暮ではありませんね。
[ そう、今でも信じられない。
もちもちなネギヤを、あの弁護士が刺したなど]
この事件は謎が多すぎる。
[ 男の足は、書斎に向かう。
応接間ではなく、彼女の告白を信じるならばもう1つの事件の犯行現場になったその場所に。
しかし]
あれ?
[ ふわりと妙な浮遊感を感じたかと思うと、昨日あって今日ないもの、その逆もまた然りの場所へと迷い込んだ]
あら?わたしは何をしてたのかしら。
[寿司桶を片付けに台所へ行ったまでは覚えているのだが。]
年を取るとこれだから、いやぁねえ。
[手を頬に当てて苦笑する。そういえば人形はどこに置いたのだったか。]
[知っているようで、知らない風景。
――いや、知らないようで、知っている。
折れて切り落とされた樹木の枝、
子供の頃にネギヤが付けた壁の傷、
そのどれもが、新しい]
……これは、どういう……?
[まるであの頃のままの屋敷が、目の前にある。
夢でも見ているのか]
そう言えば、時計……。
[あの時受け取ったはずの懐中時計も、いつの間にか手の中から消えていた。
どこに置いてきたのだったか。
ひとつ、ふたつと廊下の足音が増えていく]
探検、っすか。確かにじっとしてても仕方ないし。
これがネギっちの言ってた「懐かしいもの」かも知れないんで、せっかくだから見せてもらいましょっか。
[何らかの境地に至ったらしいオトハに頷いて、書斎を出る。
少し歩くと、人影が見えた]
あれ、グリタさん?
ナタリーちゃん、どこへいったの?
[人形の名前を呼びながら、部屋から出て行方を探す。ふと庭を眺めれば]
あら?木の感じが随分違うわね。
どうしたのかしら、金木犀の木も幾分
小さくなって……
ん、んんー……
[目が覚めたのは、恐らく倒れてから随分経った後。
どれほど寝ていたのだろう。
たしかゼンジの後を追って、廊下に――]
あたた…痛いわぁ…
なんなん、もう……
[みんなに発見されたり救急車で運ばれたり。
ということもあったかもしれないが知る由もない。]
……ここ、どこ?
ゼンジさん、無事やろか…
[辺りを見渡すと、そこはネギヤの洋館…のよう。]
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