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―― 廃屋の映画館 ――
[――破れた銀幕に映る心電図が、
水平のラインを引き続けている。
背後でカラカラと回る映写機の音。
老婆を載せた車椅子のハンドルに
手を添えて、背広姿が佇んでいる。
無声にて流される映像は、病室の一幕。]
[逝った片割れの台詞は、無音に聴く。
"幸せ『だった』よ。"
残される相手の背を前に押す、
想いが生んだそれは優しい呪言。]
意を汲む――
なかなか、為せることではありません。
真に思い出そうとしても
忘れられなかったのなら、
…きっと、
相棒と呼べる存在だったのでしょうね…
[やがてフィルムが途切れれば、
廃屋の映画館には暗闇が*訪れる*。]
[大人買いして駄菓子屋を後にするレンの背後、
老婆を載せた車椅子を押す背広姿が通りかかる。
毛糸の襟巻きに顎を埋めた老婆は
目を閉じたまま微笑んでいるよう。]
会長。
水飴でもお召し上がりになりませんか。
…お好きでしょう?
[声をかけると、老婆はこっくりと頷いた。]
[駄菓子屋の店主が、
墨で「いも飴」と書かれた容器から
木匙で掬いとったのは茶色い水飴。
受け取った老婆はそれをじいと
しばらく見つめてからねぶり始める。
秘書たる男は店主に代金を払い――
また車椅子を押して駄菓子屋を出る。
思い出を買った青年と、
思い出に辿りついた探偵を見かけたのは、そのあと]
[肯定も否定もする気にならなかった同業者の言葉。
『私の好きな人だけが笑ってれば、それで良いの。』
想い、彼らの笑顔が
其処から垣間見えたかは知れず――]
どうか、お風邪など召さぬよう。
[ポケットの裡から取り出した
【木彫りの小判】にささやかな願をかけた。]
[かつてゾウサク少年が空き家に隠したうちの一枚。
引越してきた一家が見つけ、縁起物だと喜んだ其れ。
ゾウサク少年は、存外に器用だったに違いない。
レトロ横丁の文房具屋では、
今でも肥後守を売って*いる*。]
[この日を最後に、
たばこ屋は窓口営業をやめた。
また表通りにやってきた黒塗りの車に、
背広姿は空の車椅子を積んで乗り込む。
いつしか薬屋の前、ケロヨンの足元に
見慣れない老犬が歩けぬ態でうずくまる。
その鼻先は、僅かに濡れた*さくら色*]
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