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……ワタシが断れば。
[一等車、その主はとうに居ない]
あなたが「彼女」を探し出して、利用する、のかな……
[答えを聞くはずの相手はいない]
アナスターシェ……
[つぶやく。あからさますぎと指摘された手が、小さな拳銃を握ったまま脱力して垂れ下がった]
それとも……
[どれくらいそうしていただろう。渡された乗車券、一等車のそれがどれほどの意味を持つのか、わからないはずはない]
ワタシが。
[知っていると口にしてしまったから。ほころびは、自分から起こる。それは、それだけは――]
だめだ、絶対。
[乗車券を、テーブルの上の兎に持たせると、持っていた拳銃を構える]
ロマネスの秘宝なんて……無くなればいいのに。
[引き金を、引く。
ぱん、としかし音はしない。飛び出したのは、ただの水。水鉄砲に狙われて、黒い兎は水浸しに。
けれど、自分の目には、兎が銃弾を受けて飛び散ったように見えて。黒の残骸の幻覚が自分の着る衣服の上着に重なった]
終わり、ました。
約束、守れたでしょうか。
[無事だった、ただそれだけを伝えようと、言葉を選ぶ。かえって、不自然な硬さが目立つ声だったかもしれない]
[とにかく部屋に戻ろうと、一等室をでる。この広い部屋に移るにしても、荷物は取りに行かなければいけない。何があっても、何もなくても、特なのはどっちか、顎に指を当てて思案する]
一等、という格好ではないのですけど、ね。
[自分の姿を一度見下ろして、苦笑混じりのため息をついた]
……っ あ――
[なにかあった、には、答えられず。言葉を飲み込んだ。一言でも答えたら、全て言ってしまうだろう、そう思えたから、なおさら言えない]
……今、一等車にいます。このままこちらにいた方が、利になるでしょうか。
かわいらしいおまけ、ですか。フリルの彼女ではなく?
[続く言葉に、ようやく、戯れを口にして、幽かな笑いを漏らした]
[食堂車を通り抜けて……幾分静かになっただろうか。風さらしの連結部分を抜けて]
……二章目はadageo - accelerando というところか、な。
[付け加えた演奏記号は、風に乗って後方へ消えていく]
[自室に戻れば、先刻と別の小さな者が自分を待っているだろう。開ける前から、わかる、送り主]
……小さい、は甚だ余計。
[それでも、つい、マトリョーシカを開けてしまう。中に入った手紙、目を通す前から内容は想像できたが]
五月蠅いよ。
[なのに、読んでしまった。その自分の行為自体に腹が立ってきて、くしゃ、と手紙を丸める]
大体。
ワタシが守ってるのはロマネスの秘宝じゃない。
[それに興味があるのは、本当だけれど。興味があるのは、彼女がそう、言ったからで]
悪魔の楽譜なんて、本当かどうかわからないし。
[演奏して聞かせて、だなんて、言われなければ――
遠い昔の約束だから。まだ幼いころの約束だから。だから反故にしてもよい、と思えるほど……自分は他に、何も持っていないから。興味を持ち続けていないといけないと思うけれど]
でも、あなたより大事なものは多分ないよ。「アナスターシェ」**
そうですね。
確かに、出て行ったばかりの人の部屋を使う理由を、上手に説明出来る理由が思いつきません。
[不審者という言葉に、くすりと笑って]
酔っぱらって、髭を? はは、なかなか盛り上がったようですね。結構なことです。
[くすくすと楽しげな笑い声に、微笑んで。目を閉じると深呼吸。音のしない動作は、ほとんど伝わらなかっただろうけれど]
ええ、では、また後で。
[ゆるりとした口調で返す]
/*
アナスターシェ係りをウルスラに無茶ぶるとかはオニだろうか。まあそう信じている、ということはあり得るけれども。
この中の誰かの方が、おもしろいかなあ、どうだろうか。とりあえず、寝よう。
>>8
[開けたまま放置してあったマトリョーシカに目をやる。ふむり、と思案の結果に満足して、返事を書くことにした]
<可愛くない小熊。
閣下にボルシチでも献上なさい。
ラウル>
[そんな内容を、組織の人間が使う暗号で、書く。解読出来ても出来なくても、意味深に映ればいい、そう思いながら。
差出人の名前は、相手に合わせて間違えたままに。訂正すれば相手が喜ぶだけだと思えたから。マトリョーシカに鮭の絵を書き足して、手紙を詰めると、閉じる]
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