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[女が一人。生垣をぬって現れる]
[背筋をしゃんと伸ばして、バラの花ひとつひとつを話し掛けるように覗き込んでいる]
[やがて人影を認めると]
あら……変ね。
[訝しげな表情を作って呟くも、何が「変」なのか思い出せなかった。それが自分事ながらおかしくて、思わずくすりと笑みをこぼすと]
こんばんは、よい夜ですね。
[声をかけて歩み寄った]
[無精髭を顎一面に散らした男と可愛らしいボンネットを被った金髪の少女が楽しげに話しこんでいる]
[...の常識で言えば奇妙極まりない取り合わせに足を止めていると少女がくるりと向きを変えて歩き去る。見送った男が寝転んだ拍子に低い垣を押しつぶしたのを見て、小さい悲鳴をあげる]
ちょっとあなた。
そう、そこの髭のあなたよ。
[憤然と言い放つと、つかつかと歩み寄った]
[むくっと起き上がり、声の主をマジマジと見遣る]
んな慌ててどうした?
美人が台なしだな。
[にやついた笑みを隠そうともせず、地べたにあぐらをかいて女を見上げた]
[にやついた笑みで返されて憮然としながら男が先ほどまで寝そべっていた辺りを指差した]
あなたが今押し潰していたものが何か知っていて?
可哀相にやっと咲いたのにみんな潰れてしまったわ。
美しいまま潰れた。
[詩をそらんじるように平坦に言った。
緊張感のかけらもなく、あふ、とあくびを噛み殺して]
あんたの庭だったのか?
美しいまま…
[思いがけない男の言葉に二の句を失った。が、やがて平静を取り戻すと怒気を抜かれていることに気付いて]
はぁ、もう良いです。
[微かに苦笑しながら男を押しのけるように垣に向かってしゃがみ込むと潰れた花を拾い集めてバスケットに入れていく。男の言葉には]
確かにうちの庭ですけれど。
あなた雇い主の家の娘のことも知らなかったのですか?
[酒を口にしようとして目についた、少女の置いていった瓶を手に取り蓋を外す。
親指で縁をなぞると、きゅーっという細い音が鳴った]
いい声だ。
[二三度振るい、水音に耳をすまして蓋を締めた]
ヤトイヌシ?
[いつの間にか何やら作業を始めていた女に顔を向ける]
[首筋に水滴が落ちた気がして無意識に拭う。
しかし、乾いていた]
オレが雇われてる?
[ヤトイヌシ?と不思議そうな顔で尋ね返されて]
あら……ごめんなさい。
私てっきり新しい庭師なのかと勘違いしてしまって。
[申し訳なさそうに詫びると、男が首筋を拭うのに気がついて]
どうかなさいました?
刺が刺さったのなら消毒しないと。
庭師が花踏み荒らしてたら笑い話だな。
[刺と言われたことには首を振る]
大丈夫だ。
[散らばっていた数本の瓶を抱え込んで立ち上がって]
悪かった。
[独り言のように呟いた]
……オレは何してんだ?
[く、と口角が上がる。
声を出して笑いながら]
必要なのは酒だ。
[ふらりと*甘い香りから逃げ出した*]
[大丈夫、と言われてほっとすると気の緩みから]
うちはお父様もお母様も庭にはあまり興味がないの。
庭師もそれを知っていて、目を離すとそれは酷いものなの…。
[我ながら愚痴っぽい、そう思っていると男は腰を上げる。立ち上がり際の男の呟きを聞き漏らして]
あの…いえ、なんでもありません。
[聞き返そうとしたが言いあぐねてそのまま男が立ち去るのを見送った]
たりねぇ。
[小瓶を逆さにし、その下で口を開ける。
一滴も零れない。瓶を投げやってため息を吐く]
あー……。
[意思なく震える手を見下ろし、背後の樫の木に身体を預けた。
地面に身体が沈み込みそうだった]
クソったれが。
[男は顔をくしゃりとしかめた]
[風向きが変わり、甘ったるい芳香が纏わり付く]
酒はまだか。
[頭の中で地図を思い描く。
庭園は果てしない]
どこだよここ。
[ポンプを押し、冷たい水を手に受けました。
舌に残る味を水が洗い流します。
小さくため息をついて、水場の脇に腰を下ろしました]
[どこかで、リズミカルな叫び声が聞こえました。
意味の通らないそれは、それでも人間の声のようでした。
今夜はやけに賑やかだなと、首を傾げました]
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