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手前から二つ目の扉を三回叩くんや。
ほんで、花子さん遊びましょ、って言うんよ。
……ほんなん。
私がどう言うかなんて、わかっとるやろいね。
[ヨシアキの問いには呆れたように、笑い混じりに返した。ヨシアキに先行の危険を冒して欲しくはなかった。そして、ナオにも]
私が行くわ。
ヨシアキは、「そん時」止めてくれんけ?
信頼しとんやからな。
[ヨシアキをじっと見据えて言い]
どうしてもそれが駄目なら……
私とヨシアキで、じゃんけんや。
[半ば冗談半ば本気のように続けて、に、と笑った]
…――――
俺は、マシロを守る
そう、ゆうたしな
ええわ、止めてやる
その代わり、マシロ
何があろうと、俺ん手、離すなよ
やる事やったら、無理矢理引きぬく
花子さんが、返事しても、せんでもな
それで、ええか?
[マシロに、右手を差し出した]
良し。
[ヨシアキの返事を聞けば頷き]
おいね、しっかり握っとるげん。
ちゃんと引っ張りまっし。
[再度頷きながら、差し出された手を左手で握った。握り合わせた手を一度見てから、トイレの中に入り込み]
……行くじ。
[二つ目の個室の前で止まり、その扉を見つめる。左側に立つヨシアキを一瞥すると、一つ深呼吸をしてから、扉を叩いた。こん、こん、こん。三つノックの音が響き]
……はーなこさん。
遊びましょ。
[個室に向かい、声をかける。と、次の瞬間、ばたん、と大きな音を立てて扉が――外開きの筈のそれが――内側に開いた。個室の中は、一面が血で真っ赤になっていた。便器からも血が溢れ出していて]
[ドアが開くのを、この目で見た瞬間に
返事の声など、聞く前に
思いっきり、マシロの手を引いた]
っ…―――
[体が動くとか、動かないとか
片手じゃ重たいとか、そんな事どうでも良く
ただ、純粋に、無くしてはならないと
無くしたくないと、思って、引っ張った]
こっちや、戻れっ…―――!
[背中から、今までで一番大きな寒気を感じた]
[便器の前の床には、頭があった。床が血の水面であるかのように、それは顔を覗かせて笑っていた。おかっぱ頭の、真っ白な肌の少女――花子さん]
!
[それらを視認するが早いか、花子さんの頭の横から、やはり真っ白い手がぬるりと長く伸び、素早く少女の右足首を掴んだ。そしてそのまま、ぐい、と引っ張る。それはヨシアキが左手を引っ張るのとほぼ同時で]
ヨシアキ……!
[その名を大声で呼ぶ。どぷり、と右足首までが赤い床に――血の沼の奈落に入り込み]
戻れ、マシロ…―――!
[渾身の力を入れて、引いているけれど
腕力と霊力は違うもので
そうそう、上手くは行かないかもしれない
それでも、この手だけは離さないと
そう、心に決めたのだから]
離さんからな、絶対っ…―――!
[背中から、声がする
聞いた事のない、女の声がする]
[問う声は、くすり、くすりと笑い続けて
願いを叶えたいのかと、語る]
そら、叶えたいわな
こいつ以外は、なんもいらんわ
[引っ張る手に、力が籠り
霊との引き合いは、どちらが勝つか]
[酷く強い力で、足が引きずり込まれていく。恐怖のせいもあったか、体が固まったようにうまく動かなかった。それでもヨシアキの手を離す事はなく]
っ……!
[ずるり、足が滑る。体がどぷりと血の沼に落ち込む。ヨシアキの手を握る手に、右手も重ねた。視線はヨシアキと花子さんとを順に見て]
[両手が添えられた手を、更に強く握り
俺も、両手で彼女の手を握る]
っ…――――!
[どうなるか、わからないけれど
力は、確かに籠っている]
マシロ、痛くても我慢しや?
一緒に、おるからな
……うにっ。
もー、二人ともいちゃらぶだに。
[普段と変わらないような二人に、少しだけ、気分が落ち着いたような。
けれどそれも、女子トイレに入る所まで。
先程の理科室や階段と同じ様な、重苦しい空気。]
[自然に、喉が動く。
瞬間、風景が一変する。
逃げ出したい衝動が意識を駆け巡るけれど、足は縫い付けられたように。]
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