今日は河原に行こうか、ポチ
[蝉時雨、蝉時雨]
んっ?
[痣の部分を握られたような感覚の次は引っ張られる感覚が襲う]
人引きの呪(まじな)いか
ポチ、お前は生(い)くんだ
代わりに父と母を守れ
俺は此岸(しがん)から何処に行く
[放たれた紐]
ポチ、また逢おう
お前がその気ならお前が幾度も輪廻から舞い戻った時に逢おう
いつか神隠しから還る日まで――
[しかし身体はきちんと成長をしているようで]
[引っ掛けたその狐の面は]
[去年に比べて顔より少しだけ小さくなっているだろう]
どれぐらいか招いて送ったら
そのうち完全にこっちに馴染んでそんでニンゲンで暮らせるのかなあ
[一昨年よりも去年、去年よりも今年]
[数回通り道にお招きすればあっちに戻らなくてもいいような]
[幼い何かはそんな感覚がして]
無声映画『突貫小僧』あらすじ (wikipediaより)
路地で子どもたちがかくれんぼで遊んでいる。
そこへやって来た人さらいの文吉、子どもたちのひとり鉄坊に目をつけて「楽しいところへ連れていってあげよう」と鉄坊を連れ出す。その途中、鉄坊がぐずり出し、菓子パンやらおもちゃやらを買い与えてようやくおとなしくさせた。
しかし、今度は変装用の付けひげをむしり取られるなどのいたずらに手を焼く。警官が近くにいることもあって文吉は気が気でない。
文吉はようやく親分の権寅のところに鉄坊を連れてきた。しかし鉄坊は、権寅のところでも腕白ぶりを発揮し、悪さのし放題。
「どこかへ捨ててきてしまえ」という権寅に、文吉は再び元の場所まで鉄坊を連れて戻ってきた。そこでは鉄坊の仲間の子どもたちがまだ遊んでいる。鉄坊を見て集まってくる他の子たちに、鉄坊は大量のおもちゃを見せて「あのおじちゃんに買ってもらったんだ」と、こっそり帰りかける文吉を指さす。
自分にもおもちゃを買ってもらおうという子どもたちに追いかけられ、大慌てで逃げ出す文吉であった。
本当に、そんな事するなんて、思っていないわぁ。
……でも、少なくとも、怒って行ってしまった……わけではなさそうね。
[『担い手は悪い奴じゃない』]
[そう言った彼は、どこまで、どれだけ知っていたのだろう]
[問う術は既にない]
狐雲に選ばれれば、道に魅入られ誘われるもあるかしら。
だからこそ、気を付けなければならないのだけど。
[ふう、と]
[鈴の音に重なる、小さな吐息]
[一年という時は、異界の覡にとっては刹那]
[少女から娘へ変わり始めた身には長くもあり短くもある]
[そんな時を重ねつつ、成長を示す子の姿に、僅か、目を細め]
……そうねぇ。
また送って、刻を連ねて、こちらに馴染めば。
人として、生き続けるも叶うかしら。
[それにはもう少し、あちらに人を送らねば]
[それはわかっている事だから]
[あの神社で見たものは幻だったか。
神社でふたり(と一匹)を見かけて
ふたりは何かよく分からないことを言っていて。
気がつけば、さきほどとは何かが違う場所]
……ここ、どこ?**
今年はさあて、誰を通して招くか。
だれにしようかな、きつねぐものいうとおり。
[空を見上げて]
ああ、いい雲だなあ。
[このままこっちで過ごせるか]
[道に送るつもりがおくられてしまうのか]
[ポチとにーちゃんを送ったきつねぐもはきっときまぐれに]