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やっぱり、なんかあるんだ………
親父、生きてんのかなぁ………
美夏ちゃん、大丈夫かなぁ………
[頭に響く、不思議な声。それはきっと、あの人の]
………ズイハラさん………
[日はまだ高い。俺は学校に行っていた。下駄箱に収まった上靴達に温もりはなく。職員室にも人影はない。いつも、休みだと言うのに青春してる野球部の叫びも。体育館からいつも聞こえるはずのバスケ部の声も。テニスコートで和気藹々としていたテニス部の黄色い声援も。そこにはない。]
なんなんだよ………なんなんだよここは!
[久しぶりに着た制服は、誰に見られるわけでもなく。珍しく履いた上靴は、誰もいない廊下に足音を響かせるだけで。]
「まだ信じられないの?」
[何処からか聞こえたその声に、俺は振り返る。すぐ横にあった理科室の中で、たたずむ一人の女生徒がいた。長い黒髪のその人は、何故かとても異様な雰囲気がした。]
「私のいう事、まだ信じられないの?ジュンタ。」
[雪は、ちらちらと降り積もる。冬に広がるその空は、灰色の雲に覆われていた。葉を失った木々が寒そうに、その枝を擦り会わせる音がした。]
アン………なんでお前はここにいる………?
「私はいつも、ここにいる。貴方を見てる。」
嘘だ、お前は俺を見ていなかった!
「いいえ、見ていた。ずっと、見ていたよ?」
なら……ならなんで!どうして!
俺はこんな一年を送らなきゃいけなかったんだ?
俺は、俺は………!
[彼女の瞳は、とても悲しそうに見えて。ふいに、言葉を失ってしまうのだけど。それでも、俺は彼女に。久しぶりに会えた彼女に。伝えたくて、伝えられなかった言葉があり。]
アン……俺は………ずっと…………
[その言葉を紡ごうとした時、ふっと美夏の顔が頭をよぎり。]
「なぁに?ジュンタ」
[不思議そうに俺を見る女生徒に、小さく舌打ちをして。信じられないのは、自分自身だ。知り合ってたった2日。そんな女の顔が、こんな時にまで頭をよぎるなんて。]
なんでも………ない。
[そう、俺はもう失ったんだ。今さら何が取り戻せる?]
「そう………サヨナラ、ジュンタ。」
[泣きたくなる。サヨナラの言葉を聞くたびに、俺の心は縛られていく。凍りついていくんだ。自分自身の足を、一度強く殴ってみて。痛みから我に帰り顔を上げれば、もうそこに彼女の姿はなかったと思う。]
[誰もいない理科室。冬の訪れは、全てを凍らせてしまうのだろうか。凍りついたように静かな、平日の学園。外に吹く木枯らしが、がんがんと窓を叩いている。鳥の声すらも聞こえなくて、望まずして訪れた静寂。まさにそうだ、世界は凍っているのだ。]
氷付けの世界………ね。
俺にはお似合いの世界なのかもしれねぇな。
[届かない気持ちがある。忘れられない想いがある。新しい心がある。返信があるまで、俺は何も考えず寝転んだまま。]
降り積もる白い雪は心模様………そっと………
滔々と白い雪は………無情なる人の世を………
全て許すように降り続いて行く………
[着信音を口ずさんでいた。]
[ぱちり、携帯を閉じれば思い出される昨日の事。]
アンが言うには、死者がいるって………
多分、ズイハラさんだよな?
………止まった時………でも、俺には関係ない。
どぉせ俺は氷なんだ。溶けない氷なんだから。
[そう思っているのに。暖かいなにかが、俺を溶かしていく。]
はいはい、サブアドねー。
優等生は携帯依存症なわけ?
[ぶつぶつ言いながら、携帯にアドレスを打ち込む。]
あぁん?人を覚える必要がないって?
お前、悲しい奴だな。
人間、人脈が一番の財産だぜ?
お前、いい女なのに勿体ない。
そんなんだからモテないんだ。
[ばっかじゃないの?と聞こえたから、きっと肩をすくめたに違いない。なんにせよ、マシロと別れた。]
[こぼれ落ちる砂のように、さらさらと世界は崩れていく。
記憶と思いが、薄れていくように。]
…サヨナラ、なんか…。
[空へと還る、雪。]
…消えたくない!
[黒髪の少女が告げた事実を認めたく無くて。]
…だって……
[いつか良いことあると、言ってくれた人がいて。
スノボ行きたいねと言ってくれた人がいて。
明日は、妹が…]
[ずきずきと、頭が痛む。目の前が赤く染まる。交差点のビジョンが走る。これは誰の記憶だ?]
アンの記憶……?
それとも、死者の……?
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