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―― 宿の近くの木陰 ――
[集会に呼ばれていたけれど、顔も出さずに木陰でのんびりとしていた。
そこに誰かが近づいてくる気配を感じて]
んー? なんだ、ドロテアかあ。
はぁ? 人狼を見た? えー?
[本当に見たと主張するドロテアに猜疑心いっぱいの視線を向ける。
全然信用してないとわかる態度で欠伸をした。]
それってさあ、最近言われてた噂だろー?
土砂崩れが怒ってただでさえぴりぴりしてる奴多いんだから、そんなデタラメ吹聴してたら、そのうち誰かに怒られるぞー。
[まじめに忠告してみるけれど、ドロテアは納得しないどころかどうして信じないと反対に怒る始末。
どうしたものかと肩をすくめれば、もういい、とドロテアがその場を立ち去っていった。]
[立ち去っていったドロテアを見送り、ぼさぼさの髪をぐしゃぐしゃと掻く]
あの調子で言いふらさなきゃいいけどなあ。
そもそも人狼を見たっていうけど、人影を見間違っただけ、とかいうオチも有りそうだしねー。
[独り言を呟きながら、どうするかなあと首をかしげる。
いつのまにやら集会は終わったらしく、宿から幾人かの人が出て行くのが見える。
戻って何か食べるか寝るか、それとも誰かのところに遊びに行くかと迷うように、ぼんやりと新緑がみずみずしい木々を眺めた。]
[いつのまにか木陰に座り込んで転た寝をしていた。
この時期の穏やかな日差しは眠たくなるから危険だと欠伸をしながら思う。]
んー、とりあえず、もどるかぁ。
[こきり、と首を鳴らしながらゆっくりと宿へと戻る。]
――宿の一階――
[集会所と兼用になっている宿の扉は大きい。
その扉をゆっくりと押し開いて、中へと足を進める。]
ただいまぁ。
[集会に参加していた人たちはほとんど帰ったけれど、残っていた――というより残って当然の宿の主人には渋い顔をしてで迎えらてしまった。]
いいじゃん、俺が聞かなくても問題ないし。
[のんきに呟きながら、グラスに水を注いで喉を潤す。]
[渋い顔をする父親にはへらっとした笑みを向けておいた。
カウンターに突っ伏す幼馴染にはちいさく笑う。]
ペッカも参加しなかったんだ。やっぱ間違ってないよな、うん。
……って、ほらしっかりした大人がいるから大丈夫だと思ってさ。
[ペッカにエールを渡した宿の主人が怒ったような顔を向けるのを見れば、あわててぱたぱたと手を振って弁解した。]
それに俺だって何もしなかったわけじゃないぞ。
ドロテアが人狼がどうとか言ってたの、広めないようにってちゃんと注意しといたから。
[ほら、仕事してる、といわんばかりに胸を張ってみた]
[エールを飲む幼馴染の言葉にそのとおりと頷き。]
なんか、噂できいた人狼を見たって煩かったんだよなあ。
いくら季節外れの嵐で驚いたからって、そんな思い違いをするかなあ。
[腹をたたくペッカにそこは違う、とつっこみながら首をひねり。
息子とその友達に呆れた宿の主人はとっとと厨房に引っ込んだ様子。]
まあ、ドロテアだって、皆に否定されりゃそのうち勘違いに気づくよな、きっと。
[がっしりした幼馴染と対照的にぽっちゃりした腕で頬杖をつきながらカウンターの上にあった莓の籠をそーっと引き寄せて、春の恵みを食べ始めた。]
あはは、あんまり出てくるのが遅いようなら俺がいれようか。
[エールのお代わりがもらえないのが不満そうな様子に笑う。
らしくない、というドロテアの様子を思い返せば、真剣に訴えてきてたことを思い出して。]
うーん……まあ、否定され続けたらそう思うかもしれないけど。
[もぐもぐと口を動かしながら小さく応え。
他愛なく口にされた、幼馴染の言葉にぽかんと口を開く。]
勘違いじゃなかったらって――ペッカは本当にいると思ってるわけ?
[首をかしげたところで、苺のへたを口の中へと放り込まれた。]
うぇ、ちょっ、ペッカ、なにするんだよ!
[ぺっぺっと、へたを吐き出しながら日に焼けた男を睨めば、厨房から父親がでてきて、うるさい、と怒られるのだった。]
くそう、なんでペッカのせいで俺まで怒られなきゃならないんだ……
[笑うペッカを恨めしそうにじと目で睨む。
幼馴染が居るときの日常に、嵐や土砂崩れ、人狼の噂といった非日常が僅かに薄れる。
杯を手渡されてふかーいため息をついた。]
エールの代わりにミルクでもいれてやろうか……
[ぶちぶちと呟きながらも、酒杯を片手にカウンターの中へと入る。
そして樽からエールを注ぎ、ペッカの前へと置く。
その後はしばらく、カウンターごしに対面しながら、会話を続けるのだった。]
―― 宿の一階 ――
[ありきたりな航海の話でも、小さな田舎町からほとんど外に出ないベルンハードにとっては珍しいもの。
興味深く耳を傾けながら相槌を打ち。
ふと愛称を呼ばれて軽く瞬いた]
んー、まあこう、やりたいーって思うこともあんまりないしなあ。
[他の商売、といわれてうーんと悩む。
せかさぬ様子の幼馴染に、有難いような悩むような複雑な笑みを一瞬浮かべて]
ん? ああ、ドロテアかあ……
そのうち迷信深いじいさん連中と話があってよけいに騒ぎ立てるようにならなきゃいいけどなあ。
[町にいる該当する人の顔を脳裏に浮かべて、そんなことにならないようにと祈ってみる。]
親父なら厨房だよ。
まあ簡単な飲み物ぐらいなら俺が聞くけど。
[けら、と笑いながら奥に引っ込んだという幼馴染の言葉を裏付ける。
ウルスラの仕事の話は小耳に挟んだことがあるから、ペッカとの会話は邪魔しないまま、ウルスラの望みが食事なら父親に声を掛けるのだった。]
山越えかあ。
俺はやろうとは思わないけど……閉じ込められたことに我慢できなくなった奴が居たら、やるかもしれないなあ。
[ペッカたちの話を聞きながら、ぽつりと呟き。
ウルスラにお勧めを聞かれて、がさごそとカウンターの下をさぐる。]
えーっと、たしか……あったあった。
冬につけた林檎酒がちょうど飲み頃になってるから、これでいいかい?
[しっかり者の宿の主人の趣味は酒造り。
その息子は手伝うだけで自分から作るわけじゃないけれど、できたものを勝手に飲むから怒られるのはいつものことだった。]
赤ん坊が増えるのは嬉しいことだけど、ペッカの姉さんにしたらしたい仕事もできないつらさもあるってことかあ。
まあそのうちまたいいもの作ってくれるのをのんびり待つしかないねえ。
[ウルスラのぼやきに、だなあ、と同意を返しながらグラスに林檎酒を注ぐ。
それを女の前に置いて、自分のエールを一口飲んだ。
ペッカの視線に首を傾げてみるが、口にされない言葉を問うことはせず]
なんかさあ、そのうちまたドロテアに話しかけられた人がやってきそうな気もするよね。
住人全員に声を掛けるつもりだったりするのかなあ……
そうなる前にちょっとドロテアを呼んだほうがいいんだろか。
[カウンターの向かいに座る二人がドロテアを案じるのを聞けば、
かんがえるように腕を組む。]
集会から追い出されたから、ドロテアは当分宿には近づかない気がするしねえ。
そりゃあ、どっちかってーと、女子供向けだからなあ。
俺は甘いのも好きだけど。
[ペッカの言葉にけらけらと笑いながら、
そんなにのんびりしてないという反論は、むなしく響くのだった。
しばらく二人と言葉をかわした後、ゆっくりと立ち上がり。]
ま、とりあえず、ちょっとドロテアに声を掛けてみるよ。
[そう断って、宿の外へと出て行くの*だった*]
―― 宿の外 ――
[どこにいくとも決めずに外に出て、ぐるりと周囲を見やる。
ドロテアは見える範囲には居なくて、軽く肩をすくめて歩き出した。]
んー、でもなあ、話を聞くとしても……
どこまで信じるかだよなあ。
[やっぱり人狼がいるとは思えないベルンハードにとっては、ああいってでてきたものの、ドロテアに声を掛けるのは面倒だなとも思い。
なかばふらふらと散歩するような態度で道を歩く。]
―― 町の広場 ――
[のんびりと歩いていれば、道なりに広場に到着するのは当たり前だった。
どうしたものかなあとぼんやりと周囲を眺め。
そのままドロテアの姿が見えるか、はたまた他の人に声を掛けられるかするまでぼんやりとしている**]
[ぼんやりと広場のベンチに腰を下ろしている。
そうしているうちに町外れのほうからドロテアがやってくるのが見え]
あー、ドロテア。
[ひらひらと手を振りながら呼べば、こちらに気づいた少女が不機嫌そうに近づいてきた。]
なにも聞かずに否定したのは謝るからそんなに怒るなよ。
――人狼をみたって、どこでどんな風に?
[ほら、ここに座れ、と隣を叩きながらたずねれば、不機嫌そうな少女はそれでもぽつぽつと話し始める。]
[きちんとした姿を見たわけじゃないこと。
森の奥、木の陰だったけれど、大きな狼が見えたこと。
血の匂いとかがあったわけじゃないけど、アレが人狼だとぴんときたと――]
ふーん……つまり、根拠はないただの勘だってことか……
ドロテアが見た狼が人狼かどうかはともかく、大きな狼が居る、っていうことだよなあ。
[ふーむ、とかんがえるように腕を組む。
人狼かどうかはともかく、という言葉に少女は「やっぱり信じてないじゃない!」と怒ってまた歩き出してしまった。]
あー……またやってしまった……
[怒って立ち去ったドロテアを見送りながら、深い吐息をこぼしてがしがしと髪をかき乱す。]
やっぱり俺にはこういうのはむいてないんだよなぁ……
―― 広場から宿へ ――
[はあ、とため息をひとつついて、ゆっくりと歩き出す。]
まあ、しょうがない、か……
[いつまでもくよくよしてても仕方無いから気にしないようにして。
ゆっくりとした歩みで宿へと戻っていった。]
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