─宿一階─
ただいまです。
[きぃ、と音を立てて扉を開く。]
……立て付けの悪い扉ですね……。
[一週間以上滞在していればこの音にも慣れたけれど。その前に居た大きな街と比べてしまい、小さな声で呟いた。
集会場に居る人々には小さく会釈をして。カウンターの席へ着く。]
軽い食事と、ミルクを。
[ここ一週間、お決まりのオーダーをした。]
[宿に居たのは見慣れた面々。見慣れるつもりはなかったのに、いつの間にか覚えてしまったな、と嘆息する。
街へと向かう旅の途中、一夜の宿を取るだけのつもりだったのが。飾り道具が壊れ、その修理を頼むのに四日。更に土砂崩れで足止めされて三日。自らの運の悪さを嘆くほかない。]
……そのうえ、人狼? 田舎町らしいというかなんというか……。
[口上の練習をしているときに耳にした、化け物の名を口にしてみる。
馬鹿馬鹿しいとの思いをこめたそれは独り言のつもりだったけれど、近くにいた人は聞きとがめたかもしれない。]
ええと。それはその。
[>>11聞かせるつもりはなかったから、聞かれたとなるとばつが悪い。]
……街の近くには狼がいない、狼を見たことのない人が多ければ、人狼の信憑性だってなくなる、それだけです。
[あまりフォローになっていないフォローを返した。]
僕は旅が多いから、狼も見たことはあるけれど。人に化けられるような狼が居るのなら、人を食わずとも牛でも鳥でも食べればいいでしょう。狩と違ってお金を出せば食べられるんですから。こんな風に。
[最後の言葉は、肉を焼く音のする調理場を指してのもの。
宿屋の息子と緑髪の少女が、黒髪の少女を宥めていたなんて知らないから、声は普通の音量だった。]
[ドロテアは、人狼を否定する...の言葉に、「人狼はいる」「見たもの」との言葉を返してきた。]
……「見た」って言われても。
[緑髪の少女に「人狼を鳩に変えられないか」と問われれば、]
僕はまだ見習いですから。師匠ならきっとできるでしょうね。
[そう言ってポケットからカラフルなボールを取り出した。それをドロテアに向けて。]
いいですか、お嬢さん。ここに取り出しましたるは魔法のボール。種も仕掛けもございません。
さあテーブルに置きましょう。ボールはここにあります。貴方は確かに「見」ましたね?
[大仰な動作で、周りの注目を集め、シルクハットを帽子に被せる。]
確かに確認したのなら、この帽子を被せましょう。ここに確かにボールはある! だって貴方は見たのだから。
[ドロテアが頷いたのを確認して、にやりと笑う。それはずいぶん意地の悪いものだったろう。]
はい、ワン・ツー・スリィ!
[シルクハットを取り去れば、そこにボールは跡形もなく。
あっけにとられたドロテアと、拍手を待つ手品師が残るのみ。]
ふぅ。
[激高するドロテアを見て、ため息。
あまりにも予想通りの反応をされて、つまらない……などと思いつつ、ミルクを一口。]
うーん。
[今日も道は閉ざされたまま。暇を持て余して、自室でジャグリングの練習をしている。
昨日手品に使った四つのボールを、ベッドに腰掛けたまま宙に投げて。受けて。また投げて。]
……暇ですね。
[唐突に飽きて手を止めれば、ぽとぽとと床にベッドに落ちるボール。]
どうしましょうか。
[それを拾い上げ、行く宛てもなしに部屋を出た。]
[ふらふらと歩くうち、小さな広場へとたどり着いた。
凝った煉瓦の模様もなければ、きらめきをたたえた噴水もない、...にとってはつまらない場所。]
……おや、どうも。
[昨日も見かけた大きな帽子の人物に気づけば、軽く会釈をした。]
暇ですよ。
[心底うんざりした調子で答える。]
もともと僕は荷物を一つ受け取ったらそのまま師匠を追いかける手筈でしたから。
手品の道具も読みかけの本も、全然持ち合わせていないんです。
[口をへの字に結ぶ様子は、退屈した子供そのもの。]
[>>62 愛想を身につけろと言われれば、肩をすくめて。]
そうですね。考えておきます。
……街に着いたらせいぜい愛想をふりまいて、お金持ちのお客様を手に入れるとしましょう。
[別に意図したわけではなかったけれど、内心が出たのだろう。"街"や"お金持ち"という単語にアクセントがついた。]
……こんな田舎町でそんな努力をして、なんの意味があるんですか?
[笑う女に、冷めた言葉を返す。それは女の指摘した未熟さを肯定する行為だったけれど、...はそれに気づかない。]
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おかしい。何度か来たことのある村で顔見知りって設定にしようと思ったのに。
全員敵に回してこの子は何がしたいんだ。
[>>74 一向に余裕のある表情を崩さない女に苛立って。]
……こんなところで僕にずっとかまけていていいんですか?
あなたもずいぶん暇なんですね。
[女が少しでも顔色を変えれば、ずいぶんと溜飲が下がっただろう。]