[洋館の前で歩みを止めるとまどろみから覚め、くあぁぁーーっと大きなあくびをした]
…ん、着いたか。ご苦労。
[男の腕の中からひらりと飛び降り、辺りを見回して]
こんな僻地で人目をはばかることもなかろうに。
相変わらず遠いなぁ。季節感がないのも相変わらずか…。
[前肢をくくーっと伸ばし、ついで後肢も]
さて、このままの姿でも良いが、飲み食いに障りがあるな。
かつお節で満足していたのでは、何のために遠路はるばる来たのやら、と。
[ぼんやりと立っている男の足に前肢でたっち]
[猫は怪訝そうに首を傾げ、男は帽子を取ってつるつるの頭を撫で上げた]
このヒトの身体も久し振りだな。
大分ガタがきてる…そろそろ取替え時か…。
少し身体を馴染ませないといかんなぁ。
お前も適当に散策してくると良い。涼しいところで寝るのが一番だとは思うがね。
[身体を入れ替えた奴霊にそう告げ、下げてきたトランクは玄関先に置いたまま、洋館の周りをぶらつき始めた*]
いかんいかん、木陰で昼寝している場合ではないな。
お久しゅう、見た目が若い衆。
誰が誰やらさっぱりなのはお互い様だな。
自己紹介が必要でも仕方ないか。
私はウミ。時々ネコ。
担当地域は海全域…小区域は若い者に任せてるがね。
特製の魂壺を仕掛けておけば、海で絶えた者の魂が勝手に入ってくるという寸法よ。
この身体は灯台守を生業にしている。
普段は奴霊に動かさせて、私はのんびり昼寝しているよ。
ところでなぁ…久し振りの会合だが、私は明日の昼には一旦持ち場に戻らにゃいかんのだよ。
なにしろ夏場で、水難で絶える人間が多いのでな。
奴霊を戻らせて私がここから操る手もあるんだが、あれは自分の名前も忘れて迷っている間抜けだからなぁ…あの世でも名簿の突合せが出来ずに、仕方なく私が預かってるんだ。
明日の朝から美味しいものが供されるなら、何とか残りたいと思っているが、ね。