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…毎度あり。
[そう言って、神社の跡取り息子を見送る。
彼の執り行う占いの儀式の場には店番を理由に行かなかった。
今晩は虫の音が煩くて眠れなさそうだ、なんて事を考えながら出店の裏でラムネの瓶を傾けて。
しんと、辺りが静まり返っていた事に気付いて――]
[――気付けば、此処にいた。
良く知っている神社のようでそうでない、不思議な場所に。
祭りの喧騒は何処か遠く、現実感はない。]
…はは、
モラトリアムの終わりが来るどころか、呼ばれてしまったのか。
[乾いた笑い声が口の端から洩れた。
店を継ぐか否か。
選択するどころか、異界に渡ってしまったのかと。*]
[彼方側は時が過ぎるに従って変化してゆくが、此方側にはあまり変化が生じない。
それ故に時の流れの感覚はひどく希薄で、彼方側の景色の変化でそれと知る。
彼方側の神社の境内で始まっているのは秋祭りの準備。
青年がいなくなって一年が経とうとしていた。
同じ夜に神隠しに遭ってしまった少年とは会う事はあっただろうか。
一昨年に話した時のようにぼんやりとした事しか話せなかったかもしれないけれど。]
…こんな心算じゃ、なかったんだけどな。
[――青年は何処に行くでもなく、何をするでもなく此処にいる。
家族の事は気にかかったが、触れる事も話す事も出来ないのだから仕方ない。
境内で拾った近野物語はやはり開かぬまま。**]
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