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[――ぱん。
銃声が、聞こえた。異形の女を撃った音の残響、ではない。もう一つの音が、響いた。何だ、と思う。一瞬、時が止まったように思えた。緩慢に思考を巡らせる間が、あった。――その空白は、弾けるように終わった]
…… っ あ、
[長身が、駆けていた勢いのまま、ぐらりと傾いだ。膝が地面に付き、そのまま全身が崩れ込んだ]
……っい、……ぐ……
[赤涙は溢れ流れるまま。口元に刻まれているのは笑み。その下顎部は半ば昆虫頭部が如くに変貌している。翅根が震え…やがて、羽ばたき、乃木の身体を地上から持ち上げる。無造作に銃をぶら下げ構えれば、ズイハラの斜め上空より事も無げに身体へ撃つ。
翅根屍人、そして武器の優位性。
辺りへ、羽ばたく音が低音に響く。]
[望まず伏せた地面は、冷たかった。だが、それを消す程に、熱かった。――弾丸で貫かれた、胸が。――視界が、ちらつく。何処かから、遠く此方を見下ろしている、銃を構えた屍人の、視界。
己は、撃たれたのだ。気付かぬうちに、射程範囲に入ってしまっていた。心臓の鼓動に併せて襲う熱さと痛みを覚えながら、ゆっくりと、その事を理解した]
……は、……
[心臓からは外れているらしい。肺を貫かれたのかもしれない。苦しい。血液がどくどくと溢れ出る。寒い。熱い、のに。やられた。死。死ぬ? 死ぬ、のか。私は。こんなところで。化け物にやられて。
嫌だ。助けてくれ。駄目だ。痛い。私は――]
[苦痛と恐怖と絶望の意識が、遠ざかっていく。いつしか流れてきていた赤い水が、己が血と混じり合っていくのを、男は、「最期」に見た]
がっ
[銃声。右腕から赤いしぶき。
走る自分と飛ぶノギでは、結果は火を見るより明らかだが]
ち、くしょー 泣くか笑うか! どっちかにしやがれ!
[鞄を抱いた左腕でなくて良かったと思う。
バリケードめがけて走る、鉱山の出口へ――否、途中で見つけた、横道へ姿を隠す]
こなくそ。
[大音量放送中のラジオを前方に放り投げ、自らは物陰に隠れる。鞄から取り出すのは、魔よけの、杭。
一瞬でいい。ラジオに気をとられてくれれば。もし背後を見せれば――]
[それから、幾らかの時間が、経って。
――男は、閉じた目を再び開いた]
……
……あ、……ああ。……
[軋んだような声を零しながら、男は体を起こした。少しずつ、少しずつ。ゆらりと立ち上がる。とぷり。水が揺れ、僅かに跳ねる、音がした]
……
[きょとんとしたように、辺りを見回す。空を仰ぎ見る。その双眸から、赤い涙が零れ落ちた]
それでも、
おばさんが燃やしてくれなかったら
[何処にも存在しないと嘯くヘイケ女史の傍を、
彼女の目には見えない幽霊がすうと通り過ぎて]
からっぽの俺もうるしさまに捧げられて
かぶれていたよ
[宙空へ翅根屍人浮かぶ、御湯治場へ姿を現す。]
あんなふうに
[赤い海から還る。還る
罪が購われるまで]
[罪]
[“ギンスイはあたしのものだもん
神さまになんか、あげない”
それは過ぎた刻の、己が声の木霊]
[上空からでは、山間の四辻村、生い茂る木々に阻まれ獣道を走るズイハラを捉え難い。
翅音を低く響かせながら、低空へ…そして、横道に反れたズイハラに気付かず、鉱山の出口近くに投げ出された、大音量の『ラジオ』へ向かう。]
”…んん…?”
[くぐもった声を洩らし、地上から数十cm浮かんだ状態でラジオに屈み込む。]
……天使、……
[空に在る発光体――常ならば見えない筈のそれ――を眺めて、嬉しそうに、男は笑った]
……っひ。
はぁ、ははは。はぁぁ。……
[体を揺らし、捻れた笑い声を零す]
……取材。しないと。記事……記事……
[ぶつぶつと呟きながら、赤く染まった手帳を取り出し、歪んだペンで人外の文字を書き付けるようにする。何度も何度も、塗り潰すように。
視界とは別に、異質に音ならざる言葉を得ていた男は、力の基たる呼び声に蝕まれるままに。人間としての裡の多くを喪った、屍人と化した。
そして、ただ、彷徨っていく。
赤い村を、赤い姿で、赤い意思で――**]
[ズイハラ氏が投げたラジオの転がった先。
大音量にかき消されるはずの声が、ひそり]
『 俺に任せて 』って言った
あれは 嘘なの?
[――乃木 梧郎氏の名残りへ*問いかけた*]
[借りた視界に映る、巨大ないきものと]
なにあれ。かわいい。
[それと、大学生の姿]
…ねえ、知ってる?
この村、この場所みたいなのを、異界って呼ぶんだぞ。
じゃあ、その異界の境界を抜けたら
…どこへ辿りつくんだろうね。
[語りかけるような、ひとりごちるような声が零れ]
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