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──もう少し落ち着かれるまで、待合室で休んでらしてはいかがですか。
ええ、どうぞどうぞ。ごゆっくり。
[去年の祭の夜に消えた少年の家族は、心労故であろう、月に何度かここで不眠を訴えるようになった。
今日も、彼が連れていた犬の寂しげな遠吠の事を語りながら涙をこぼしていた。]
薬なんぞより、効き目のある事はあるんだがなあ。
[映画がはねた後、人いきれに酔ったものなのか、少し顔色のすぐれなかった少年の様子を見てやったのが思い出された。
あの状態のままだったなら、健康ではあるのだろう、そうであればと思う。]
“赤城の山も今宵限り”、か。
あの日限りだったんだなあ……。
[白いフロックコート姿と入れ違いに、いささかくたびれた白衣の医者がエビコの元に。]
へえ、今年の映画は「突貫小僧」という演目なのかい。
[焼おにぎりと一緒に、そういう情報を教えてもらう。]
そいつはまた、なんというか。
[今年も客引きに駆け回る悪童の憎めない笑い顔が脳裏に浮かんで、口元がほころびる。]
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