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ボタンさんとボタン雪をかけて話しようってわけじゃないですよ?
[村内放送の始まったスピーカーを見上げる]
暢気だなー。
こんなときに、いつも通り放送流すもんかね。
なんて曲でしたっけ?
[振り向くそこに、ボタンの姿はなく]
またかよ。
[驚いた素振りも見せずに呟いて、タカハルの方を見る]
一緒に駐在さんとこ行くか?
……あれ?
[唐突に零れる、声。一つ、二つ。瞬きを重ねる。
仕種はどこか、放心したような]
……や。
オレは、いかない。
[一緒に、という言葉。ふる、と首を横に振った]
[村内放送。流れる曲は――Over the rainbow。虹の彼方に。虹の彼方の、]
[半ば無意識に、放送に重ねるようにその曲をリコーダーで吹いた。澄んだ高い音色は朝の通りに響き渡る。
だが、それはすぐに途切れた。リコーダーを握り締め、歯を食い縛って、蹲る]
っ、……う……
[三度目の、声が聞こえた。
消えた、と。気を付けろ、と。そして、もう一つ]
―― 朝 船頭の家 見習いの間借り部屋 ――
…
[さやさや、さやさや。
眠っている間は、たましいたちの交わす声を漣の如く聴く。
長年、眠りの浅い男はいつもどこか眠たげな眼をしている。]
あの声、―― やっぱり アン じゃった か。…
[昨夜掠め聴いた声と照らして思い当たると、薄い布団の上、
男は身を起こしてこぶしを握る。――――身支度をする。]
そいから、別の 悲鳴も… ?
[疑え、と。
ボタンの時と同じように。
今度、頭に浮かんだ姿は]
……タカハル、君……?
[痛みに耐えながら、呻くように、その名前を呟いた]
―人形店→駐在所―
[クラクションを短く鳴らし、車は走り出す]
何してんだあいつ。
[サイドミラーに写るタカハルは、何かを上空へ投げたようだった]
[空へ消えたてるてる坊主。
いつの間にか逆さてるてるとなったそれが落ちるのは、花を気遣う少女の部屋。
部屋に主の姿はなく。
移民の青年のサマーセーターが、丁寧に畳んで置かれていた]
……たんない。
[ぽつり、零れる呟きは雨音に飲まれる]
これじゃ、まだ。
『堰』の先に、いけない……。
……ここから、でらんない……。
―― 村の通り ――
[ キコ… ]
[錆の浮いた自転車を漕ぐ。
衣服はまだ着古していないシャツ。幾分首元が、ごわつく。]
… ほ 親方。
こんちは 昨夜は すみませ――
[通りで行き会うのは、キクコの父親。
船頭見習いの男にとっては、花作りの余暇に櫂捌きを教えてくれる
もうひとりの師匠といった人物だった。その彼に聞かされるのは、]
キク嬢ちゃんが 消えた ちな… ?!
[――――朝食後の僅かな時間に、キクコが消えた、と。]
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