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双葉さんが?
……そう。楽しんでくれてたなら、良かった。
[ぽつりと呟く声に、感情は籠もらない]
…………。
[若葉の指摘に、差し出した手がぴくりと僅かに動く]
そうですか。
それを理由に、僕を犯人だと告発すると?
[怒る風でもなく、若葉の顔をじっと見て問うた]
[まっすぐにこちらを見上げる視線]
……ありがとうございます、と言うべきなのかな。
[思わず目を逸らしながら呟いた]
わかった。一緒に行きます。
[手首の少し上に、真新しい傷痕があった。
改めて見れば、爪痕とも見えるそれをちらと見遣りながら、若葉に頷いた]
[若葉の問いに、瞬いて彼女を見る]
……別れは、辛いよ。誰だって。
生まれ変わりを信じていたって、何年先の誰なのかなんてわからないんだから。
[若葉の半歩後ろで、前髪に顔を隠すようにして俯いた]
僕も、母さんが死んだ時は、……悲しかった。
そっか。若葉さんのお母さんは――
[儀式の生贄として、祭壇で死んでいった彼女の事を思い出す。
と、双葉の父親の話に目を円くして]
え、ダンケさんが?
……そっか。そうだったんだね。
[口元だけに笑みを浮かべる]
家族、か……。
村の外では、「お父さん」も、家で一緒に暮らすんだってね。
[白衣の照り返しに目を細めながら、若葉の背中を見て、問い掛ける]
若葉さんは……ダンケさんの子供を生めて、良かった?
[清治の母親が死亡したのは、十数年前の事。
転倒時の打ち所が悪かったため死亡、というのが、当時の医者による診断であった**]
―村外れ―
はあ、はあ……。
[闇雲に走り続ける。
足は無意識に人気の多い方向を避けて、気が付けば村の外れにまで到達していた。
周囲には村と外との境界を示すように、疎らに木が生えていた]
…………。
逃げちゃった、なあ。
[足を止めると、幾分か冷静になって状況を振り返る事が出来た。
犯人と確定した訳ではないが、十分に怪しまれる要素にはなっただろう]
……なんで、
[広げた両手をじっと眺め、呟く。
しかし理由は明白で、自嘲気味に笑う事しか出来なかった]
ははは、……あーあ、馬鹿だなあ。
[騒々しい蝉の大合唱に、か細い呟きは飲み込まれていった]
[狭い村だからだろう、どこかで炊かれる鍋の匂いが漂って来た。
一番色濃い匂いは、肉。
刻まれた娘の肉体は、鍋の中で単なる食材に変わってゆくのだろう]
肉……肉……全部、ただの肉。
[呟いて、ふらりとまた、何処かに向かって歩き出す]
―畑付近―
[定まらない足取りで歩いている所に、声を掛けられる]
あ、……ダンケさん。
集会所の方は解散になったんですか?
[つい普段よりまじまじと見てしまったのは、若葉の話を聞いていたせいだろうか]
そっか。あんな所に居たって、息が詰まるだけだしね。
[ダンケの言葉に頷く]
……そうだね、
[曖昧に頷きつつも、相手に首を傾げられると]
いや、ちょっとね。
変な話だけどさ……
[相手の顔をじっと見て、迷いながらも、ついには口に出す]
父親って、なんだと思う?
……そっか。そうだよね。
[ダンケの答えに頷く]
自分が父親になってるかどうかさえ、そうそうわからないしね。
[質問を返す声には曖昧に笑って]
いや……ただ、父親の気持ちってものがわかる人がいるのかな、と思っただけだよ。
僕は誰かの父親じゃないし、多分もう父親になる事はないから。
そうだよね。
[多分いない、という答えに頷くが、続く言葉に]
それは、――出来ない。
[茶化す言葉に視線を逸らす]
母さんを死なせた奴と、同じ事なんて出来ないよ。
それに――
[顔を俯ける。前髪に表情を隠すように]
罪人の子供なんて、きっと誰も産みたくない。
産まれるべきじゃないんだ。
[ダンケの言葉に、無言のまま懐を探る。
白い布に包まれた棒状の物。
布を解けば、中から鈍色に光る刃が現れた]
……ダンケさん。
大人しく殺されてくれたら、君の子供とその母親は助けてあげるよ。
最期に、父親らしい所、見せてくれないかな?
[肉切り包丁を握り締め、ダンケに向けて構えた]
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