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[いっそかき口説く態の素振りは、
身を引く旧友の身こなしに遮られた。
軽業師が僅かに目を瞠り口を開くのは、
正気づいてもの言うマティウスのさまへでなく
――「前頭葉のみ」を灼こうとした
己の意志が相手に「生死」を口にさせたこと。]
…
[ヒュウ… 喉鳴りを弱めながら、
軽業師は旧き友の言葉に耳を傾ける。]
[二度ほどにまりとばつが悪そうに頬を掻く
道化きらぬ仕草もあったが――爆発は突然。
応えもなにもなく、邂逅は引き裂かれた]
[屋上庭園の在った建物を跳び出すと同時、
軽業師は空中で2つの手榴弾と擦れ違った。
陽炎の中を通過する其れが爆発する猶予は、
其れを投げた中年の男の思惑より早かろう。
飛翔する先に居るのは誰あらぬマティウス。
視線のみで気にしたばかりで…正面へ跳ぶ。
走れば常の疾さは望めない――
跳躍した先に見えるのは、
瓦礫の陰へ屈み込もうとする酔いどれ男の背。]
[手榴弾を投げたと思しき彼の背へ片手をつく。
其処で身体の向きをぐいと変えれば僅かに沈む。
直後飛来する1ダースの銃弾は、酔いどれ男を
援護するものでなく異形を彼ごと射殺するための。]
ハ、…えぐいね
[ミチミチと焼け窪んだ脊髄の糸を引きながら、
低い宙返りで逃れる、
――否、逆方へ待ち伏せる他の一団を奇襲する。]
[警告と怒号、銃火器を構える音は
言葉も動作も完結することはない。
口腔へ灼熱の拳を叩き込む。
喉仏を摘み炭化しきらぬうちに引き千切る。
油の染みこんだ作業服は掴んで火だるまに。
火炎瓶を持つものは、
間近を駆け抜けるだけで事足りる。
粗悪灯油の引火点はせいぜい50℃――破裂、炎上。]
[握力は健在だが、身に抱く炉熱の高さゆえ
掴むアルミニウムの窓枠は容易く融けて弾ける。
火花に片目を眇めつ、狙撃を避けて高さを得る。]
…ッ、かは――
[胸板から脇腹へ大きく抉れた傷が引き攣れ喘ぐ。]
[よじ登った先の室内には、
年老いた男が機関銃を掴み上げていた。]
…くっ… !
[焦ってマガジンをがちゃつかせる彼の銃口と
交差する熱い手が、掴みかかろうとして――
びくん、と止まった。
相手の胸元、とうに何処へも通じない携帯電話。]
[――尖塔の傾いた清掃ゴンドラから引揚げた品。
年老いた男の息子の形身、『引揚げ屋』の仕事。
部屋の奥には、彼の妻が。]
……
[苦笑を浮かべながら引いた手で、
片鎖でぶらさがった馬銜を噛む。
背を向けると――壁を ガン と蹴りつける。]
[潰れた肉切り包丁に罅を入れられていた
軽業師の 右足首 が、綺麗にちぎれ飛んで――
持ち主よろしく二度宙返りをし、床へ転がる。
撒き散らされる鮮血にゆるいコールタール、
長さ不揃いの神経束と血管がぴちり踊る。]
[――背を向けて昇り来る翼は、赤と黒。
跳躍と上昇の軌道は交差する。息を呑む。
翼人の腰回りを、灼けた腕で掬いながら
軽業師の男は辛うじて目標より一階下の
割れた窓へと其の人もろとも転げ込んだ。
足首のない剥き出しの骨で窓枠を蹴り、
すぐに腕を緩めてアイノから離れようと――]
[足首のない骨の痛みは、脳天まで抜けた。
脚先でなく額を押さえて
苦鳴を噛むのは男の矜持。
仰向けに転がり離れようとした背への触に、]
―― …
[軽業師の動きが止まる。
…首を動かして見遣り]
俺も やばかったの
…お互いさま …燃えるよ?
[陽炎の名残を纏う男はそれ以上動かずに言う]
[――ざ、と窓から身を乗り出すと旧友の姿。
気配を、感じた気配を凝視する。
…供犠の娘、その敬虔とは違う。
…復讐者、その葛藤とは違う。
…嗚呼 かまをかけたは正解か。
賞金稼ぎの女は――狂乱に躍る、…を持つ…]
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