[――はらり、舞い落ちたひとひら。
点々と木洩れ日の彩る並木道に、みどりいろ。
吹き抜けるようにさらり、風が頬を擽る。]
夏かしら。
[零れた、ことばは何処へともなく飛んでって
あたしはひとり、街を歩く。
あったかいような
なつかしいような
あなたの好きな夏。
あなたの好きな空。
きっと、今だって]
ふふっ。
[ひとりで笑って、きっと変。
それでもどこか嬉しくて、蒸れた袖をたくしあげて
ひとりでに、ぎゅうっと背伸びして
ひとりでに、足を鳴らす。
規則正しく躍る足は、楽しげに
てんてんと、木洩れ日の街を歩いてゆく。
反対に駆け抜ける風はうっすらと
渚の潮風そっくりで。]*
[並木道を抜けた先、ガラス張りのビル。
六階の出版社へとエレベーターに乗って
行き交う人波に、飲まれないように
都会はいつだって、ふとすれば溺れてしまいそう。
案内のベルが甲高い音で到着を告げれば、担当さんのデスクを探す。]
お願いします
[見つけては、抱えた封筒を渡して。
なんでもない話をしては少しだけ、喧騒を忘れられるよう。
そんなのもすぐだけど。終わればぺこりと頭を下げて、また同じ道のりを辿ってゆく。*]
…ふぁ…
[ふいに眠気を覚えて、並木道を逸れた小路へと。
用事は済んだけど、お日様は頭のてっぺんに。家路につくにはもったいなくて
ふらり、気ままに足を運べば、見慣れた児童公園。構わず足を踏み入れて、近くのベンチへ。
子どもたちの騒ぐ声に耳を傾けながら、あたしの姿も見えたようで
とてとてと、こちらへ駆け寄るのがみえて]
こんにちは。
[色付き始めた肌色の、半袖シャツの少年達にあいさつをする。
日陰の下のママさん達にもぺこり、お辞儀して]
「こんにちは、蒼井さん。今日は原稿?」
そうなんです、締切で
[気心知れた他愛ない話。
ちょっとは、有名にもなるかもしれない。
子どもも旦那もいないひとり働きの女が、こんな時間にひとり、しょっちゅう公園に現れては。*]
[とてとて駆け回る子ども達を遠目に、世間話に耳を傾け。
顔ぶれはもうほとんど覚えてしまった子ども達の話に、笑ったり驚いたり。
あなたはどうなの?なんて、あたしの話にも興味があるようだけど]
さぁ、どうでしょう
[そうやってあたしが首を傾げるのを見ては、ほんのちょっぴり呆れ顔されて。
世間的には考えるような歳ごろだろうけど
どうにも、ぴんとこなくて
照りつける日なたに少し、眩しさを覚えて
ふと、視線を彷徨わせれば。]
へぇ、飲みたい!いつも麦酒ばっかりに寄っちゃうけど
お勧め、今度見に行くね。
[へらりと笑って。今あるお酒のストックが無くなったら、寄ってみようかと]
それもそうね、夏神様ってなんか素敵。あたしの分の元気も、ゼンちゃんに託しちゃおうかな。
そういえば、お父さん大丈夫なの?
[夏になると見かけない、当代さん。暑さに弱いのはどこかで聞いてて、夏のお店は大抵ゼンちゃんがいて。
同い歳なのに、すごいなぁなんて。
密かに感心してみたり]
[楽しげな表情につられて。
真似っ子してに、と口角を上げてみせる]
あら、おじいさん達は乗り気じゃあないの?てっきり好きかと思ったわ。
わぁい、あんず飴!楽しみだなぁ、屋台
[拾われたリクエストに、さすがゼンちゃんとばかりに喜んでみせて。
次々と要求を口にする子ども達に、圧倒されてしまいそうだけど
手際良くメモしてく手元を見つめながら、やっぱりすごいな、って。]
サービス?ふふ、もちろん浴衣で行くわ。
夏祭りといえばこれだもの
[どんな浴衣にしようか。家にあるのは、青い朝顔模様の浴衣。シンプルだけど、よく馴染んで
やっぱり今年も、それかもしれない。*]