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…うむ。次に貰うとする。
[示された棚、酒瓶の位置を覚えると確とうなずく。
何しろ今はレイヨの茶で腹が膨れていると素振りして手にしたあたたかなカップで寛いで暖を取っている]
そんなところだな。
因みに、今は"危険"を冒してるつもりはない。
[歓談には遠い状況下、過ごすひとときは静か。
ドロテアについて想うことをカウコが語る声へと
蛇遣いは耳を傾けひとつふたつ相槌を挟みもする。]
ちから、か。
…… ああ。気持ちは無力ではないはずだな。
ドロテアのも…お前のそれも。
もしも、だな。
もしも袂を分かつことがあるなら、カウコ。
[やがて彼のもとを辞する折には、
ひとときの暖と時とに礼を伝えて。]
先に一発入れさせてくれる
くらいのサービスは、――あるんだろう?
[戸口で少し押し黙ると…笑まず軽口を*叩いた*。]
[ 『 そりゃ"どっち"の前提だ? 』…
別れ際、カウコの応じめく問いに、蛇遣いは
「あとで鏡を見るとわかるんじゃないか?」と
悪人顔で損をする性質の相手へ添えておいた。
ぐず、と歩むまま鼻先に音を立てて眼差しを上げる。
――双列を為した灯りが、ゆっくりと動いていく。
凍る湖上、冬だけの雪原を目指して…ゆらゆらと。]
祭壇を、つくる…のか。
[或いはあの列の中へ、既にドロテアが居るのか。
蛇遣いはじわり、嘆きを押し殺し双眸を細める。]
[蒼い極夜。
寒風が粉雪をさらう凍った湖面に、紅い極光が映る]
紅い輝きは常に惨事とともにある、…か。
[呟く。思い出したのは、先のビャルネの台詞。
先刻見かけた彼は、確か自身の小屋へ戻った筈。]
けれど、止まぬ験しもなかったろう…
夜も世も、在るばかり――だな。
[さくり。往来に踏み固められた道に沿って、
蛇遣いは歩をビャルネの住まいへと向けた。]
――ウルスラ先生。戻ってたのか。
[ビャルネの小屋を訪ねる扉前…獣医たるウルスラと
行き会い声をかける。軽く足踏みして待ち歩を揃え]
お疲れさまだ。
晴れるは気でなく赤の空ばかりだが…
ただ、ひとを感じてまわっているよ。
…先生は、トナカイたちを?
裏切るわけには――か。
ああ。そんな言葉の端に安心してしまうな。
[まだ芯までは冷えない身。洟を啜る頻度は低い。
蛇遣いはウルスラと、小屋を出てきたビャルネへと
どこか遠い国の香りがする俗な会釈を一つ向けた。]
言っただろう、先生。ひとを感じてまわっていると。
調べるというほどには理詰めの頭をしてないのでね。
…戸口を騒がせてすまんな、白髪頭。
今は寒さより…あの火が気がかりでならんよ。
信頼、か。その言葉は…今でも眩しいな。
あたしが流れきた街では、それさえ打算だったから。
[瞼を伏せて、毛皮に包む大蛇へ片手を添える。]
…ああ。相棒があたしに"従う"のは
笛を吹いてるときだけだ。それ以外は――
すきで傍に居てくれてると、いい。
[く、と柔く抱いて頷く。
次いで、ウルスラの言う"あの事"に顔を上げて促し]
[ビャルネの吐息が、目の前を流れる。
涙に視界が歪んだわけではない、と自らに確かめて
浅く俯き…はじまったのか、との声にたぶんなと添え]
…目をそらすな、と何かが言う。
…他に見るべきがある、と他方で言う。
気がかりなのは、変わらん。
ドロテアの望みを思えば――見送れんよ。
[やがて去り行くヘイノの背には、またなとだけ告げた]
…ああ。有難うだ。
[――相棒の、旨い餌。
夏には事欠かぬものの、冬は覚めれば無く…飢える。
凍えぬよう目覚めぬよう人肌で温め続ける蛇遣いは、
獣医の言葉に感謝しながら、遠い雪解けを想った。]
…この地には、それがある。あたしも知ってる。
利用――ひとの心を?
[ひとつ瞬いて、ウルスラが明かす話を傾聴する]
するものらしい、というのは…誰とした話だろう。
聞かせてくれるといいが――先生。
―― ビャルネの小屋前 ――
[気づけば、いつしか村のほとんどの人々が
外へ出て――葬列めく儀礼へ視線を向けていた。
容疑を向けられる他の者の姿も、そこにはあって。
…逸れかけた意識は、ビャルネの呟きにか戻って]
…?
狼使いに、味方する――…
あんたが、書物へ希望ある知識を求めている
ところだろうと思って訪ねてみたんだが。
ふむ…随分と、剣呑な話を聞いてしまったな…
…カウコと、か。
その類の話は――奴らに知恵を付けてしまいそうで
あたしは確とは誰にも言い出せなかったな。ふむ…
[ウルスラから聞かされる内容を、先のビャルネの
あやふやな話と重ね合わせながら、思案げにする。]
ああ、書物でなく長老さまの仰せか。
…あんたしかテントにいなかったとき、か。
[随分早いうちからテントの中で顔を合わせていた
ビャルネの、手元から杖先へと視線を辿らせ―――]
…ほんとうなら…あぶない橋を、渡るものだな。
[僅かに感想を添えて、身震いの後に小屋へと戻る
ビャルネへとやはり常の如く俗な会釈で見送った。]
ああ。
…書物のほうは、また改めてだろうかな。
――眠れるようなら、少し眠っておけよ。
[小屋の主が戻った後は、ウルスラとふたり。
残されるままに、蛇遣いは彼女と顔を見合わせる。]
…ここでもう、先の"信頼"の話になるわけか。
皆に話すか、自身が信用する者にのみ話すか。
口を噤むにしても、期間を含めまた難しい――
狼使いに加担する者が、いたとして。
それは裏切りだ…我々への。そんなことが…
[険しくする、眼差し。
遠ざかった灯りの列を、ウルスラと共に*見遣った*]
[訪れた静寂が、耳鳴りを呼ぶ。
先の言葉通り雪原の方角を見遣ることはなく、
人知れず奥歯を噛んで…蛇遣いは足を止めた。
別れたばかりのウルスラを振り返ると、彼女の唇が
長老の孫娘たるその人の名を紡ぐかたちが見えた。]
……
こんなふうに、…
また日を違えて違う誰かの名を呼ぶのだな。
…正体の如何に、かかわらず。
[言ちて、さくり。雪に足をとられながらも歩む。]
[失意の長老は、テントへと戻ってくるだろうか。
ビャルネから聞かされた話を思い起こしながら、
蛇遣いはテントへと手足をかじかませ向かった。]
…――
[テントの前に佇む儘のアルマウェルを見つけると、
彼の目前まで歩み寄り――黙して強く*見上げた*。]
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