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おや、ゼンジ?どうした?
[顔色の優れぬ青年を休ませて、あれやこれやと介抱しているうちに、無声映画の木戸は閉められてしまい]
あの二人が……そうかい。
[ゼンジとヒナが消えてしまったという知らせを、赤ん坊の汗疹の薬を朝一番に取りに来た若妻から聞いた。]
──まさか、な
[脳裏に浮かんだ情景。]
[見る事がもはやかなわなくなったはずの古い映画の数々。
日替わりで上映されるそれらの名画の観客は、見知った顔ぶれで、それを笑顔で迎えるのは、白いフロックコートの女性で──]
そろそろ始まってそうだな。
[診察室の椅子から立ち上がって背伸びを一つ。そこそこ空腹であるので、夜店のハシゴも大丈夫であろう。]
さて、と。
[30年ほど前までここにいた大叔父の頃から使われていた古ぼけた鞄を手に、神社へ向かう。。]
[遠くで犬の鳴く声が聞こえる。いつの間にか村にいた、赤毛の少年のところのポチか。]
そういえば、昔大叔父さんに、不思議な話を聴いたなあ。
[この村に大叔父を訪ねた若い頃、酒を酌み交わしながらの昔語り。
酔ってしまっていて、話の大半は忘却の彼方なのだが。]
──おお、やっとるやっとる。
[老いも若きも集う境内、]
[甘い香りにソースの香り、見回せば、プラスチックの風車にお面。]
おいおいデンゴよ、あんまり食い過ぎちゃいかんぞ。
[袖無しシャツ姿の悪童が脇を走り抜けるのに声をかける。]
──そうだ。
[ふと思い立って、本殿の方へ足を進める。]
偶にはお賽銭くらいあげてみるか。
[つつがなく祭りが終わりますように、と手を合わせてみたくなった*]
ああ、エビコさん。
まあな、もしや万一に備えて持ってるのさ。
[声をかけてきた女性の手にある皿の中身をチラリと見て]
…………ネギ少な目の豚汁とネギ抜きカレーを後で食べにいくよ。
『チャリリン』
[古ぼけた賽銭箱に小銭を数枚投げ込んで、柏手を。]
──何事もございませんように
誰も「呼ばれた」りしませんように──
[呟いた自分の言葉に、おや?と心中首を傾げた。
かつてのこの村の診療所の主に聞いた話の断片が口をついて出た事に、自分自身気付いていなかったのだ。]
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