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[響く鐘の音。]
…あぁ、
[指先の小さな痛みは熱を持ち、そこから黒い斑点として蝕まれる。]
そうか、僕は…
[その瞬間に思い出したのは、助けようと手を差し伸べて、自らも蝕まれ滅びていく記憶。
さらさらと灰のように散り、白い花へと。]
僕らはきっと…きちんと終われなかったんだ。
[ゆれる白い花に手を伸ばすが、手折ることは出来ず。
墓碑に刻まれた日にちは、きっと誰よりも新しい。]
楽園。
そこには痛みも苦しみも無い。
なぜならば、何も無いのだから。
[ぽつりとつぶやき、目を閉じて。]
助けたかったのは…、助けられなかったのは…
[思い出すのを拒否するように、額を押さえて唇を噛む。]
[蹲り、手を伸ばす少女を見上げて。]
僕には出来ると思っていた。
治せると、救えると。
…本当は、何の力も持ってやしなかったんだ。
食い止めることも、遅らせることも出来ず、ただ看取ることしか、
僕には、出来ない。
[少女が優しくかける言葉に、それでも首を振り。]
彼女を、あんなふうにしてしまったのも。
[透ける手は、褐色の肌を切り裂いて装置を埋める感触を覚えている。]
まだ不完全だったんだ、あの技術は。
けれど、そうしなければ彼女は…
忘れたんじゃない、思い出したくなかったんだ。
眠らせて、鍵をかけて。
眠らせて、鍵をかけた。
プレーチェ。キミは、救われた?
[涙を流せぬ目は、雨の日の犬のよう。]
わからない、だがもしかすると…
すべては最初から何も無く、
すべては最初から誰も居ず、
ある事を望むものの為に綴られるただの美しい夢。
…いや、そんなはずは。
…その曲。
[顔をあげ、ひつじを見つめる]
眠れない君へと…手向けられた?
[ノイズ混じりに、ひつじが歌う]
…あぁ。
思い出した。彼は…
[震えだした手を、もう片方できつく握る。]
助けたかった。
助けたかった…
なのに…
たとえ体は救えても、心までは救えない。
掬う…
[聞こえた言葉をかみしめるように。]
どうやら僕の柄杓は、底が抜けてしまっていたらしい。
…無理に繋ぎ留めず逝かせていたら、彼は壊れずに済んだ?
[愚かな行為への戒めのように、
自ら命を絶とうとして果たせなかったものへの処置も、それでも避けられぬ後遺症も、死よりも辛い責め苦。]
…そう、君は欠けているから。
足りなくて、本物にはなれないから。
…だから、奪い、
…だから、喰らう。
けれど、奪い取って手に入れたものは、
君のものにはならないから…
../sys/caname.exe
楽園行きの箱船の管理者。
時至るまでのまどろみを司る天使。
…全てはただの作りもの。
…そうか、カナメ。
[目を閉じ、静かに笑う。]
僕も、つくりものだね?
君の管理データの中の、無数の白衣の人々の記録。
医師、技術者、看護士に研究者。
それらから複製転写し、組み上げたのが…僕だね?
…そう、僕は失敗と後悔で出来ている。
写真…。
[ぽつりと呟き、彼を見る。]
あぁ、アレも僕だ。
…無数の僕のうちの一人。僕の器。
僕は僕であり、同時に無数の記憶でもある。
[伸ばされる、少女の手。
肌に触れる感触はもう無いけれど、肌に触れた記憶は今も胸の中にある。]
そうだね、残しておきたいからなのかな?
瞬間と瞬間を無数に積み重ねたものが、記憶。
それの一番上に重なったものが現在さ。
[少し身をかがめて、目を細める。]
あぁ、おはよう…プレーチェ。
[覚えている。麻酔から醒めてゆっくりと開いた少女の黒い瞳。
耳元に届いた、かすかな声。
それが真実か、願望かはわからないけれど。]
今日も…良い日になるといい。
…聞いてもらいたいから、なのかな?
[花壇の囲いに座り込んで、ぽつりと呟く。]
聞いてもらって、聞かせてもらって、自分の居場所を確認するんだ。
そうじゃなきゃ、自分が見えなくなってしまう。
居場所が無いと、立てないからね。
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