……え?
[不意に、こちら側の空気が歪んだような感覚。
一瞬の眩暈。
その視界が直ると、見えるのは、眩暈がする前と変わらないメンバー。自分が傍に立ってその会話を聞いていた、あるいは後ろから聞こえた声の、あの。
なのに―――明らかな、違和感。]
…今の感覚は…一体…?
[響く声。
ミナツ。獏。プレーチェ。ユウキの響く声は。]
……テンマの響きと、同じ。
……ミナツも。みんなも。
…こちら側へ…来てしまったんだね…。
[新たにこちら側へ来た者達へ向ける、悲しい眼差し。]
[獏の言葉を。一つ一つを頭の中で繰り返して。じっくりと繰り返して。]
君と俺は、相成れない存在なのかもしれないね。
…止む終えず記憶を消す。
そういう事だってあるんだよ、獏。
獏。君に。俺の夢を喰らうことはできるかい?
…俺がこちら側に来たことは。
本当に…本当に最大の誤算だよ。
俺は、盾になることが出来たのに…。
……ルリ。
君は…受け入れてしまうのか…。
……泡にだって。できる事はあるさ。
君らが俺を選ばない限りは盾にはならないね。確かにそうだ。
俺の夢を喰えるって?へぇ。
…なら。喰らってみるがいいさ。
肉体はもう、ない。掴まって溶けてしまったから。
けれど。それでも俺はここに"居る"。
君はその楽園とやらに、何を求めるのだろうね…
君の聞こえる「世界の歌」は。どんな歌なのかい?*
ありのままの世界が美しい。
そこまで理解していながら。
君には、ガラスを突き破って世界をその目で見る勇気も、還る勇気もありやしない。
この閉ざされた箱庭世界の歌に囚われて。
ただ、喰らうだけ。
星の命すら、いずれは宇宙(そら)に還る。
その過程が不自然でも。還れば結びつく、自然。
けれど、生きて結びつく自然に戻れるのであれば、それに越したことはない。だから。
だから……時が来て目覚めた時は恐れずに。その目で見、その耳で聞き。その肌で感じ。世界を見るんだよ……。例えそれで自ら滅んでも。それは自然のサイクル。
あの二人も。何か方法が見つかるかもしれない。また、あの時のように過ごせる方法が。
賭けてみよう。未来に――
[″結ぶ者″は、その目を静かに閉じて。かつてその言葉を伝えた者は……*]
[閉じていた目を開いて。静かに笑うユウキを見て。]
冷凍睡眠後の記憶障害、混乱、欠如―――それは当時の技術では避けられなかったこと。
あの治療を経てプログラムの基礎が完成した後。冷凍睡眠解除時における、『いざと言う時の』バックアッププログラムとしてカナメは採用された。
今此処にいるのは本当の君?それとも、バックアップであるカナメ?君は、目覚めた後。君は自分の力で、思い出そうと、した?もしそれをしているのならば……有希。
……自らをデータと錯覚するか、本当にデータなのか。それを知る術はない、か…。それでもね。そのどちらだとしても、いまここに君が"居る"ことに。変わりはないんだよ。有希…。
―――データは、死の夢を見るのかね?
俺の心には、君は有希にしか見えないんだけどね。
覚えてる?俺と有希とルリと雷電で、写真を撮ったんだ。
>>+56
……有希が助けようと必死だった顔。俺は覚えているよ。
[先ほどの有希とプレーチェの心の向き合う姿を思い返して]
プレーチェには……言うまでもない、かな。
雷電は―――有希の顔、見てたのかな。とても必死だったあの顔。見てたのかな。自分が倒れそうになろうとも人を救おうとしていたあの姿を。顔を。
ねぇ。雷電?君は、ちゃんと見ていたのかな。見えていたならば…君も掬われていたのかな?
君の想い人以外にも。君の事、見ている人がたくさんいたんだよ。知っていた?
写真を撮る事ができた時。
俺は、嬉しかったんだけれどね…。君は、どうだい?
ねえ。……雷電。
[声の届かないことはわかっている。それでも構わず、その言葉は雷電へ向けて―――]
["おはよう"を言い合う有希とプレーチェの様子に、穏やかに目を細めた]
[そして、テンマの響きには。
その耳を傾けるだけで。
こちら側に来たばかりの頃に「還ることができないと感じる」、と称した彼の色が。かすかに揺れているとふと感じたのは果たして、錯覚なのだろうか、確かめる術はなく…]
…………ああ。
[背に送るのはその一言だけ。それだけで、いい。きっと。
静かに。扉の中へと消え行くテンマを見送る。
かけたい言葉は、全てその瞳の中に。]
―――――…
[消えたあとに残るは開かずの扉。
テンマがいつか暖かく巻きなおしたマフラーにふれて。
静かに、静かに瞳を閉じた。*]
……優しい、やさしいひと。
そうだよ。空は―――広いんだ。
[瞳を閉じたまま、響く声に応える。それはプレーチェへか、ペケレへか、それとも…*]
失敗。そんなの……多分、ない。
そう、信じてみても。いいのかな。
今のペケレを見ていると。
止められなくても、それでも。
雫は水面に落ちてひろがり。
……博士。俺も、自然の一部なのかな。
あなたがくれた心からの言葉。素直に信じてもいいのかな――――