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― むかし ―
[話を聞く。
自分たちの言い伝え。
話がうまいのか、興味が沸いたか、
(それとも、今更消えるのがいやだとでも?)
こっそりと笑う。
つい速度がゆるむのは、そう、相手の話がうまかった、そういうことにしておこう]
[供えられる酒まんじゅう。
手を合わせる相手。
自分は立ったまま、祠を見て]
そうだな。
俺も、苦労しないと思う。
[冗談なのかわからない相手の言葉。
だから漏れる、冗談めかした本音]
今は、知りたいとも思わないけれど。
[手首をとられて反射的に腕を引こうとするが、腕は引くことも奪うこともせず、ただつながったまま]
……。
俺に言えることは、
[黙って、予想を聞いて。
最後のつぶやきに、わずかに思案するような間を作る]
花を摘んだものがいれば、
自分が代償を送る。
[去年も、それまでも、そして今年も]
[解放されて自由になった手。
一度強く握ると、青い花が現れる]
さあ。そろそろ咲くよ。
願って、摘むといい。
送る「ひと」は、もう決めている。
[案内する、その場所へ]
[伸ばされる手を、見続ける]
……。
[花を渡す相手は決まっているの。
それは、この相手ではない。
僅かに手を引いたせいか、
ぷつり、と。
手元で茎が折れる感触。
花の咲く先は、化粧師の手の中で形を変えて]
……。
[子供たちが特別に作ってくれたものだから、無下にはできないとは思う。思うのだが]
……えっと。
[さらに眉根が寄って]
飲む?
[どぶ色のそれ、さすがに差し出せずに聞く*]
― いま ―
そうか。
[漸く見つけた絆創膏は、コミカルな[刃渡り15センチの軍用ナイフ]柄。それをモミジに手渡しつつ。
いやそうな声音に、だよなあ、と頭を掻いた]
全部シロップだから、甘いだけだろうけどね。
[まだ氷の残るそれを目の高さにあげてふらふらする]
……そうだな。俺、若先生探してくるよ。
[靴擦れ程度に大げさかもしれない。
さりとて残っても、見ていることくらいしかすることがない]
入れ違ったら、酒まんじゅうは残しとけって、伝言よろしく。
[ひら、と手を振ってテントを出る]
[ひょい、と戻ってきて顔を覗かせて]
モミジさん。
俺、サンダルに靴下はおばさんぽいからやめた方がいいと思うよ。
[言った*]
― いま ―
[靴擦れ予防にはと口を開こうとして、
何路線を目指そうとしたのかわからない絆創膏の貼られたモミジの踵を見るわけだが]
おおっ!?
[大きくなって返ってくる声に、たじろいだ]
あ、いや、ええと?
[なにか地雷を踏んだらしい。
だが、当然のことを口にした以上の心当たりを思いつかない男は、目を白黒させるだけで]
あ、うん。
[頷く]
いってきまーす。
[退散を決め込んだ*]
― いま ―
[最大ボリュームの追撃に、つんのめりそうになりながら]
さすがモミジさん。
[ぽり、と頭を掻いた後、とこらえきれずに笑う]
女子力っていうか、
女性らしい、とは思うけどね。書いている本とか。
[明後日の方向へと続いている文句は耳に届かないから、
安心してつぶやいた*]
― むかし ―
(ああそうか)
[ぷつり、と。
茎の折れる手応えを感じたのが、この世での最後の記憶。
なにかを悟る、とか、感慨にふけるとか]
(そう、走馬燈だ)
[何かを思い出す、なんてこともなく。
少しだけ気になると言った村の行く末どころか、ヤンキー座りするンガムラの姿さえ、見えず]
(これにて、おしまい――)
[物思う自我も、かき消えた*]
― あのよ ―
[ひら、]
[青い花びらが一枚。
下方へ落ちて、波紋を散らす]
[ぴちょん、]
[水滴が落ちるでもないのに、
いくらか先に、広がる波紋]
[ひとつ、もうひとつ]
[花が摘んだ人間の願いを叶えるならば、代価(花)もそれと同じだけの力がある……と願ってもそうははいかなかったことも、それが、自分自身の記憶を削るものであることも、それ故に、忘れてしまった。
ただ、送ることだけ、贈ることだけ、憶えている]
……。
[足音は、ないまま]
あ。
[さまよい歩いた足は、漸く止まる]
[青い花を携えたひとがいる。
見ている先は、青い星を敷き詰めた道の方だろうか。
ふ、と笑えば。
揺らいでいた存在が先ほどまでいた世界と同じように模った]
……かえりみち、どっちだっけ。
[そのひとにかける声音は、そっと*]
― いま ―
結局手伝わないまま祭りは無事開始してるし。
[準備の手伝いを頼まれた。
盛大に遅れたのは、引き出しに入っていた、古い日記を読みふけっていたから]
日記、じゃないよな、あれ。
[えらく細かい字は、自分のものとそっくりで。
日記と言うよりは、備忘録――]
いや、
[記憶、か?
思いついた単語に首を振る]
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