[カッ、カッ、カッ、男が一人、閉館時間をとうに過ぎた美術館の廊下に硬質な靴音を響かせて歩いている。
時折、人だかりとすれ違うかのように体を傾がせ、分け入るような動作をするが視線は真っ直ぐ前に据えられたまま動かない。
突き当たりのホールに入ると、歩調を緩めることなく真っ直ぐにホールの中央に向かった。ホール中央に置かれた天使の彫像の前にたどり着くと、目を細めてその顔を見上げ、ゆっくりと右手を伸ばした]
………っ。
[手が彫像の腰の辺りに触れるその直前、男は弾かれたように差し伸べた手を引き戻すと眉を顰めて辺りに視線を廻らせ、元来た暗がりに*歩き去った*]