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そうか、そのおねえさんは、トラかい。
[女性が本来呼びかけた「ひげのおっさん」と、自分に声をかけてくれた青年とを代わる代わる見て、肩をすくめた。]
『…思い出…』『──噂』
[そんな言葉が、ビールを口にする探偵の耳に断片的に飛び込む。]
ん?思い出屋ってのはあれだ、都市伝説って奴じゃあないのかい?
[再度振り返り、年齢層も性別もまちまちな客たちの誰にともなく、そう尋ねてみた。]
本当にいるなら……
うーん。
[担いだり茶化したりする風でもなく言う青年と、若い娘の言葉に、考え込む風情である。]
──肉食女子は一人だけじゃなさそうだな。
[あちこちの皿の中身を味わう娘の様子に、自分の前の皿の中身を胃袋に移し替える作業に入らねば、そう思った。]
─ 焼鳥屋 ─
[つくねと鶏皮とビールが実に旨い。そう、目の前の糧に考えを向けようとするのだが──]
思い出「屋」ってくらいだ。お代は確かにいるよな。
[健啖家の娘は、動物をなぞらえた貯金箱らしいものを出してきて。]
虎の子を貯めてたのかい、お嬢さん?
「 何だか どこかで
よく似た 情景を 見た ような」
……、あ、あぁ。何かボッとしちまっていたよ。
ふむん。水増しとは悪知恵の働く子だなあ。自慢げに言うこっちゃねえ気もするがね。
[誇らしげにいう娘に、わざと渋面を作ってみせた。]
兄さんは、このお嬢さんの兄貴かなんかかい?
[娘の隣の男に尋ねる。]
そういう方向で、ね。
[とんでもない方向を想像しようとして]
……まあ、しっかりやんねぇ。
[やめにした。]
女は怖いからなあ、うん。
[自分自身には幸か不幸か、そういう経験はないが、現実にせよ架空の世界にせよ、同業者が女絡みで禄でもない目にあった話は、枚挙に暇がない。]
噂をばらまいて「思い出屋」からの接触を誘うってわけか?
餌から釣り針が見えやしないかねえ?
[慎重な事を口に出すのは、恐らく商売柄であろう。]
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