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[たっぷり四拍。
四拍分、わたしの心臓も呼吸も休憩したかと思うと
休んだ分も取り戻そうとがむしゃらに動き始めた。]
[どうかどうか。
あの手紙を開きませんように。
クラスメイトのあの子の指が、封に掛かりませんように]
[どっくどっくの音の合間に
わたしは恥ずかしげもなく神様にお願いした。
少しすまして並んだ字面は、見る人が見ればきっと
わたしの字だと分かってしまう。
文字だけのやり取りを幾らか続けた、
顔も知らない“友人”への手紙。
普通のわたしじゃ書けないようなことが並んでるから、
だからだから、どうか神様、
明日の納豆、残しませんから**]
[昼休みのちょっとした時間の訪れとは違って、放課後はどこでもさみしい。
教室に残ったって同じだけれど、図書館はもっとさみしい感じがする。
でも、それが好きで図書館にはよく行くのだ。
日が暮れていくのを見ながら、ページをめくる小さな音をさせるのが好きなのだ。]
[放課後にやってきたなら、することはいつも決まっている。
その日に出た宿題を真っ先に片付けて、それから好きな本を読む。
小説を読むことが一番多かったけれど、今日はあまり頭が働かない。写真ばかりの、文字の少ない本をぺらぺらとめくる。星空が延々と続く、そんな本だった。
読みかけたミステリーの本は科学のノートの隣。出そうになったあくびを手で隠して、辺りを見た。
いつも見かける、本の虫に――もう一人はあまり見ないような気がした。]
[その光に起こされて、心地の良い微睡みに別れを告げた。
窓際の日当たりの良い暖かな席。
そこは寝るには最適な場所だった。
薄く目を開いて、やっと外へ目を向ける。
眠りについた頃はまだ青かったはずの空が、すっかり黄色がかっていた。
もうこんな時間かと体を起こし徐ろに辺りを見回してみるが、まだ人はちらほらといるらしい。
それならば、もう少しだけこの席を堪能していようか。]
[別段急いで帰らなければならない用事もない。
寧ろ、あまり家にいたくはなかった。
煩いのは好きじゃない。
教室は部活動に奪われてしまう。
だからこうして、授業が終わるとここに寝に来る。
もはやそれは日課で、今日もその予定に狂いはなかった。
ぼんやりと図書室内を見渡すと、あまり見ない顔も、いつも見る顔もいる。
自然と後者に視線が縫い止められた。
そんなに本が好きなのだろうか。
飽きはしないのだろうか。
図書室には寝に来るだけだから、その魅力はイマイチわからない。]
[さてと。
ちょっとばかり気分が乗ってきたし、新しい本でも読んでみようか。
金色の、金属でできた四つ葉のクローバーのしおりは確か誰かからお土産でもらったもので、その繊細なデザインが気に入ってはいたけれど使い勝手はそういいわけでもない。それを写真集の間に挟む。席を立つと椅子が動く重たい音がして、おっとと周りを見回した。寝ている誰かを起こしてしまいそうだ、と思ってのこと。]
[もみあげの方から髪の毛が垂れてきて、手でちょいと直す。体育の時間には短くていいけれど、これから暑くなると日焼け止めを注意して塗らなくてはいけない。それに体育の後、制汗剤の匂いが充満するようになる。
そんな小さな憂鬱を思いながら、本棚の間へ。外国語の本が並んでいるけれど、読めるはずがない。これを読める生徒がどのくらいいるのだろう?]
[ほんの刹那、見えた姿。
その人に見覚えはあっただろうか。
何となく、図書館に来るような様子ではないなと思った。とはいえ、捕まえてどうしたのか聞くほどのことでもない。本棚と本棚の合間に紛れるように、また本を求めた。**]
[わたしはあんまり図書館に来るタイプじゃない。
誰かがそう決めたみたい。
「クルミってぇ、名前のわりに男らしいよね」
笑いたきゃ笑え。
部活の子にそう言われて、
わたしは携帯のストラップ……
ふわふわもこもこしたウサギのような何かを外した。
五指の間にふわもこする感触が好きだったけど
ピンク色の可愛いナニカは、
ソフトボール部ピッチャーの“クルミ”に
似合わなかった。]
[「本とかもォ、マンガくらいしか読まないんじゃない?」
パステルオレンジのマニキュアをして
誰かはそう言った。
だから、わたしは、
図書室に来るときは朝か昼休みを狙った。
今日はたまたまだ。
たまたま、放課後図書室によって、
授業中にしたためた便箋(しかもピンク色だ!)を、
いつもの、到底学生が手に取らなそうな
人気のない古びた本のページ間に押し込んだ。
6行目に書かれた俳句を覚えてる。
『ななきそなきそ』
覚えているけど、わたしはいまにも泣きそうです。]
…っ…
[だめだ。
わずかに届かない。
特別高いところにあるわけでも
身長が低いわけでもないのだけれど。
もどかしげに唇を噛んで、顔を伏せる。
車椅子乗せられた下半身は、びくともしない。]**
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