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[見目よき蛇遣いを見送って、頭巾の男は
暗くなりゆく空を見上げてまばたきをする。
真面目で親切な役人ででもあれば、相手に
こういった場合の返答は『ご心配なく』でなく
『はい気をつけます』だと忠告するのだろうが、
いかんせん養蜂家は言葉の足りない男だった。
もっとも、道の先に見える黒髪の役人はじめ、
真面目で親切な役人などそう多くないのだが。]
やあ、やあ、やあ、やあ、やあ。
[連れ立って難を避けくる若者たちに、
人数ぶんだけ投げるあいさつは*長閑*]
[後から辿り着いた者たちには、空室の他に
昆虫学者が体調を崩して休んでいることや
村外からの旅人がひとり居ることを伝える。]
相部屋になるほど大勢が
駆け込まなくてよかった…のかなあ。
…イルマ、
水道管の凍結防止ヒーターを
つけといてくれないかい。
[急な寒さしのぎの折に忘れがちな事柄を
酒場の娘に頼み――養蜂家も屋内へ*入った*。]
ほい なんの。
お前さんにはひとくちだ。
[届けた蜂蜜酒への礼を、養蜂家は
肩さえ竦めず聞き流そうとするが]
… そうかい。
[わざわざ蜂の意匠品を選んでくれるらしき
イェンニの心尽くしを受けとることにした。]
珍しい品だね?
ありがとう
[渡されたのは、蜂型をした財布。]
… どうやって開けるんだろう
[イェンニが立ち去ってから開こうとしてみて、
形状と用途から開口部の推測が出来ず途方に暮れた。]
[そのあとは皆へそれ以上の世話を焼かず、
ひとり藁と飼葉を運び、裏手の広い土間へ
屋外の柵に繋いでいた自分の荷馬を入れる。
面々は弟妹として接するには歳が離れすぎていて、
同輩の子供よりは年を重ね――"己"を持っている。
年嵩の男は、価値観を共有または継承する機会のない
微妙な世代に対し必要以上の指図をするのを避けた*。]
―― コテージ内 土間 ――
[荷馬の身体を藁束で擦ると、
真冬のように湯気が上がった。
養蜂家は、いかんなあと言ちベールを捲る。
露わになるのは、地味で幸の薄そうな面体。
ほうと吐いてみる息は白く眉尻が下がった。]
[荷馬の背から鞍を外して屈む折には、
蜂除けのベールはまた勝手に垂れる。
鞍にひとつ吊るしたままだった甕壷を
小脇に抱え、養蜂家は土間を後にした。
背後では、荷馬が安堵めいて
――ふるると鼻を鳴らす音*。]
[歩みゆく廊下の窓が風雪にかたかたと鳴る。
厨房には糧を探すイェンニの後ろ姿が見えた。
もしかしたら他にも誰かいたかもしれないが、
そのまま通り過ぎて玄関ロビーへ廊下を歩く。]
… 結局、
司書くんのあとには誰もこないか。
[急な降雪とはいえ、屋根下へ入り損ねる者も
いなかろう――それでも扉に鍵はかけずにおく。]
[ちらりと覗いた大部屋の暖炉には、
まだ火は入っていないようだった。
薪の備蓄は、夏至祭期間の煮炊きを賄う程度。
衣服の乾燥に火を使わない選択をしたらしき
彼らの判断に、男は口を挟むことをしない。]
かたい帆布の服でよければ、
貸せるよ。
[酒を飲む移住組の姿が目に入ると、
養蜂家は、ひときわ濡れた司書のほうへ
声をかけ――返答を待たず、
そっけなく階段をのぼっていった*。]
[持ち来た壷と、外した頭巾は寝台の脇へ。
替えの衣服にはひとまず困らない。
湿った服は、窓際の冷気で
凍らないよう壁側へかける。
養蜂家は、吹雪出した窓外をしばらく眺め…]
…
[冬支度のない寝台へ横になると、
白夜用の遮光カーテンはそのまま寝袋になる。
安眠できるほど暖まりはしないが、
浅くであれば眠れそうな冷え具合。
部屋に誰か訪ねてきたら
目が覚めるくらいがちょうどいい――――
相変わらず開口部が不明な蜂型の革財布を
もそもそと固い手の中で弄っているうちに、
軽い疲労のままに男の瞼は下りていった*。]
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