ざぁっと音を立てて風が吹き抜けて行きます。
アイノにつづいて宿へと向かうドロテアは、なんだか嫌な感じを覚えて、不安そうに空を見上げました。
少女の懸念が現実になるには、まだもうしばらく先のこと――
―― 宿の一階 ――
ドロテアはラウリの手品にあっけにとられてぼんやりとボールがあった場所を見つめていました。
アイノに手を引かれて、「謝って」と諭されても口をへの字にしてラウリを睨みます。
「ほんとうに、見たんだから……
信じなくて人狼に襲われたって、知らないんだから!」
叩きつけるように叫びました。
そしてドロテアは絶対謝らないとばかりに背を向けて、元の席へと戻るのでした。
ゆっくりと日が傾いて、夜の闇が町をおおいます。
すっかり拗ねたドロテアは、それでもアイノと会話をしたりしながらパンケーキをつつき。
星がでて月明かりが道を照らすころにようやく家へと帰るのでした。
人狼を見た、と少女が騒いでいても未だ平穏なこの町で。
惨劇が起きるのは*二度目の朝日を迎えたころになるでしょう。*
―― 町の広場 ――
昨日からの皆とのやり取りで、人狼が居ると訴えても信じてくれないことを理解した少女は、どうしたものかと思案するように町を歩きます。
いっそ、人狼を捕まえて――せめて捕まえることができなくても人狼が残した足跡や毛などがあれば未だ信じてもらえるのだろうかと、あれこれ頭を悩ませていました。
「あー、もう。
考えてもしかたないのかなあ」
やはり行動に移すしかないのだろうかとぐるぐると思考の迷路にはまったまま、周囲をみずにドロテアは歩いていました。
―― 町の広場 ――
ふと、ウルスラ>>57に声を掛けられて少女は足を止めました。
その近くに居る手品師の少年を見れば不機嫌そうに瞳を細めて、それっきり彼を視界に入れないようにウルスラに向き直ります。
「どこって……決めてなかったけど。
ちょっと考え事してたの」
莫迦正直に人狼を捕まえようとしてる、などとは流石に口にしませんでした。
ただ、人の話をまったく信じてない様子のラウリの言葉>>60に、カチンと着たように睨み付けます。
「いいわ、みてらっしゃい。
人狼が本当に居るんだって証明して見せるから!」
それだけ言い捨てると、話も聞かずに駆け出しました。